起業を目指す人は「好きなこと」起業という言葉を聞いたことがあるでしょう。
なんという魅力的な響きでしょうか。
好きなことを仕事にすると、長く続けられそうだし、ストレスフリーな充実した人生が送れそうです。
しかし、本当に「好きなこと」で起業できるのでしょうか?
今回はこの「好きなこと」起業についてちょっと考えてみます。
「好きなこと」は商売になるのか?
「好きなこと」で起業できるのは、ある条件が満たされている場合だけです。
それは、お客様がいるということです。
お客様がいないのに「好きなこと」をするのは趣味の世界です。
起業のアドバイスで「3つの円」という話があります。
「好きなこと(やりたいこと)」、「得意なこと(できること)」、そして「儲かること(市場が求めていること)」の3つの円が重なるような事業を狙って起業しなさいというものです。
しかし、私はこの考え方は危ないと思っています。
その理由を説明します。
「好きなこと(やりたいこと)」というのは、強烈なこだわりがあるものです。
そのため、この「好きなこと(やりたいこと)」に引っ張られ、「得意なこと(できること)」と「儲かること」の甘く評価しがちになります。
日本政策金融公庫の小冊子にこんな話が載っていました。
参照 ➡ https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/sogyo_yell_01.pdf
『Cさんは、友人と二人で居酒屋を創業した。ともに勤務先を退社後、仲間が集えるにぎやかな店をつくりたいと、知人の店で半年間修行を積んでの創業であった。
-省略-
しかし、当初は知人を中心ににぎわったものの、徐々に客足が遠のきはじめ、半年後には、創業当初の3分の1の売上に落ち込んでしまった。
-省略-』
案外、ありがちな話だと思いませんか?
これは「得意なこと(できること)」を甘く評価して創業した事例として紹介されていたものですが、ポイントはそこではありません。
つまり、“仲間が集えるにぎやかな店をつくりたい”という「好きなこと(やりたいこと)」を最優先したことが、この事例のポイントだと私は考えます。
「好きなこと(やりたいこと)」というのは、自分のなかでどんどん盛り上がっていきます。
また、こういったことをイメージするのはとても楽しいことでもあります。
だから、始める前から成功するような気になってしまうのです。
もし、あなたが「好きなこと」起業を友人に相談し、「売れないんじゃないかなぁ」と言われたら、なんとなくいい気持ちがしないと思います。
反対に、あまり関心なさそうに「いいんじゃないかなぁ」と言われたら、その言葉を過大評価してしまうのではないでしょうか?
「好きなこと(やりたいこと)」の影響力を排除せよ!!
確かに「好きなこと」でビジネスが上手くいったという話も聞きます。
しかし、お客様がいるという検証をしないで成功したというなら、私には運がよかったとしか思えません。
もし、こういった人を事例として、私が「好きなこと」で起業したとしても、幸運が起こる確率はそれほどないように思えます。
つまり、「好きなこと」起業での成功事例は、自分にも高い確率でそれが起こり得ることなのか客観的かつ冷静に見なければなりません。
むしろ、この強力な影響力を持つ「好きなこと(やりたいこと)」を最初から度外視して考えたほういいのではないでしょうか?
ではどうするかですが、そのビジネスでの収入を生活の糧としなくていい場合を除き、最優先して考えるべきは「儲かること」です。
「好きなこと(やりたいこと)」でないと仕事を長く続けられないというのもわかりますが、そもそもお客様がいなければ、あなたの意思と関係なく“ビジネス”として続けられなくなります。
そしてそのうえで、そのビジネスが自分にとって「得意なこと(できること)」なのか検討します。
この「得意なこと(できること)」は独りよがりではいけません。
例えば、「料理が得意」だと思っている人が出してくれた食事が食べられたものではないということはあったりします。
つまり、「得意なこと(できること)」を検討するというのは、必然的にお客様の存在(得意なことを提供される側)を想定しています。
この意味でもやはり、優先すべきは「儲かること」ということになるでしょう。
「好きなこと」については、ビジネスベースで考える限り無視してもいいものですが、以上の2つの要件を満たし、なおかつ、それが「好きなこと(やりたい)」ことである場合はあなたのビジネスにとってアドバンテージになります。
なぜなら、そうでない人より強いこだわりを持ってお客様に伝えることができるため、お客様を強力に惹きつけるからです。
まとめ
ビジネスベースで起業を考えるなら「好きなこと(やりたいこと)」を優先して考えてはいけません。
「好きなこと(やりたいこと)」はあなたにとってのものであり、お客様がそれを支持してくれるとは限らないからです。
むしろ、「好きなこと」は「得意なこと」や「儲かること」への影響力が強いため、極力考えない方がいいと思います。
ですから、ビジネスベースで起業をするなら、優先して考えるべきは「儲かること」、そしてそれを前提に「得意なこと」を考えていくのがいいでしょう。
なお、選択したビジネスが「儲かること」、「得意なこと」を充たし、かつ「好きなこと」であればあなたのビジネスにとってアドバンテージになります。