お金を借りるためには、経営者保証をするのが当たり前だと考えている経営者の方もいるでしょう。
確かに、銀行が融資する場合、経営者保証をすることが一般的ですが、経営者保証は借入する経営者にとっては心理的なプレッシャーがあるものです。
だから、経営者保証を借入するための必須なものであると考えていると、借入したくないと思うことでしょう。
しかし、経営者保証ガイドラインの登場により、経営者保証なしで融資を受けている中小企業も増えてきました。
当記事では、経営者保証なしの借入のためには、どのような経営者保証である必要があるのかについて解説します。
併せて、融資において経営者保証なしで借入している中小企業の実績を見ます。
1.経営者保証とは?
企業が金融機関から借り入れる場合に、その借入金に対して経営者個人として連帯保証することを経営者保証と言います。
連帯保証は、会社が借入金を支払えなくなった場合に経営者であるあなたが借入金の返済をしなければならない保証契約です。
普通の保証契約と違い、会社が払えるはずなので払いません(検索の抗弁権)とは言えません。
また、自分より先に会社に請求してください(催促の抗弁権)とも言えません。
つまり、普通の保証に比べて、連帯保証は非常に重い責任を負います。
2.経営者保証のメリット
大企業と違い会計監査などによる外部の目が行き届かない中小企業では、企業の信用リスク(返済不能になるリスク)を正確に把握することは難しいのです。
そのため、銀行にとっては信用リスクを把握するためのコストが、融資から得ることができる利益に見合わないこともあります。
このような場合には、銀行は融資に対して非常に慎重になります(つまり、貸さない)。
しかし、経営者保証があれば、コストをかけて厳密に信用リスクの調査をしなくとも、安心して貸出すことができます。
一方、借りる企業側にとっては経営者保証さえすれば、返済不能にならないことを詳細に説明できなくとも融資を受けやすくなります。
つまり、経営者保証は信用を補い、資金調達を円滑にするというメリットがあるわけです。
また、経営者保証は経営の規律を高めるメリットがあります。
企業が倒産し、個人財産を失う恐怖が強い経営者ほど倒産を回避するような堅実で慎重な経営を行うからです。
3.経営者保証のデメリット
一方、経営者保証には次のような2つのデメリットもあります。
一つは、経営者保証することにより、起業や積極的な攻めの経営の意欲を失う可能性があるということです。
なぜなら、経営者保証している経営者が自己破産すると、手元に残せる財産は多くないからです。
こういったリスクがあると、起業しようという人は当然少なくなりますし、借入金によって思い切った事業展開を考えている経営者も慎重にならざるを得ないでしょう。
また、保証後に経営を再生したいと考えていても、自己資金がないので迅速な事業再生ができなくなります。
もう一つは事業承継を妨げることです。
銀行が後継者にも個人保証の提供を求めた場合、大きなリスクを負ってまで承継したくないと考えるのは当然でしょう。
後継者がいないため事業承継が上手く進まない原因に経営者保証の問題も根底にあるのです。
4.経営者保証ガイドラインの登場
経営者保証は、企業の活力を阻害する可能性があります。
そのため、政府は経営者保証を必要としない貸出を増やす施策を講じています。
この一環で、2014年2月から適用が始まった「経営者保証に関するガイドライン(以下、経営者保証ガイドライン)」を政府は積極的にサポートしています。
なぜなら、このガイドラインは、金融庁と中小企業庁の後押しで(要するに国の後押し)、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」の検討の成果としてまとめられたものだからです。
4-1.経営者保証ガイドラインの概要
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証について次のように定めています。
- 法人と個人が明確に定められている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと。
- 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の生活費99万円に加え、年齢に応じて100万から360万円)を残すことや、「華美ではない」自宅に住み続けられることなどを検討すること。
- 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること。
このように経営者保証ガイドラインが適用されると、連帯保証で個人財産をすべて失うリスクは低くなります。
なお、2と3については、経営者保証だけでなく、第三者保証人についても同様の取り扱いとなっています。
ここで、第三者保証人とは事業に関与していないが個人的関係等により、やむを得ず保証人となった第三者(親族や友人など)のことです。
中小企業庁では、信用保証協会が行う保証制度について、平成18年度に入ってから保証協会に対して保証申込を行った案件については、経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを、原則禁止としています。
4-2.経営者保証ガイドラインの適用対象
(1)経営者保証ガイドライン適用要件
次の要件をすべて充たす保証契約の場合、経営者ガイドラインは適用されます。
- 保証契約の主たる債務者が中小企業であること
- 保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること。
- 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること
- 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
(2)中小企業の要件
「1.保証契約の主たる債務者が中小企業であること」における中小企業とは何かについて解説します。
ガイドラインの主たる対象者は中小企業と小規模事業者です。
この中小企業・小規模事業者については、必ずしも中小企業基本法に定める中小企業者・小規模事業者に該当する法人に限定していません(中小企業基本法の中小企業者・小規模事業者についてはこちらをご覧ください)。
その範囲を超える企業も対象になり得ますし、また、個人事業主についても対象に含まれます。
個人事業主の場合は会社と違い、経営者(事業主)が借入契約の当事者になると、経営者自身が保証人にはなれません。
ですので、個人事業主は第三者に保証人になってもらう必要があります。
前述したとおり、経営者保証ガイドラインは経営者自身による保証だけでなく、この第三者保証人にも大きなメリットがあります。
なお、中小企業であっても、大企業の子会社の場合は「みなし大企業」とされ、ガイドラインの適用範囲外になることもありますので注意してください。
(3)経営者の要件
次に、「2.保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること」をみましょう。
まず、保証人は個人でなければならず、会社などの法人が保証契約をしてもガイドラインは適用されません。
次に中小企業の経営者についてですが、ここでいう経営者は中小企業・小規模事業者の代表者だけでなく、次のような者も含みます。
- 実質的な経営権を有している者
- 営業許可名義人
- 経営者と共に事業に従事する当該経営者の配偶者
- 経営者の健康上の理由のため保証人となる事業承継予定者等
(4)誠実性の要件
「3.主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であること」とはどいうことでしょうか?
具体的には、主たる債務者及び保証人の双方が、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していることが必要です。
適時開示にあたっては、期中の財務状況を確認するため、年に1回の本決算の報告のみでなく、試算表・資金繰り表等の定期的な報告も必要となるでしょう。
また、適切な開示のために、貸借対照表、損益計算書の提出のみでなく、これら決算書上の各勘定明細(資産・負債明細、売上原価・販管費明細等)の提出すると良いでしょう。
(5)反社会勢力でないこと
最後に、「4.主たる債務者及び保証人が反社会勢力でなく、そのおそれもない」ことである必要があります。
反社会的勢力とは、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人のことです。
暴力団は典型的な反社会勢力の一つです。
主たる債務者と保証人が反社会勢力であったり、そのおそれがある場合はガイドラインが適用されません。
5.経営者保証ガイドラインの活用実績
ここで中小企業の多くが利用する政府系金融機関における経営者保証ガイドラインの活用実績、つまり、無保証借入の実績を見ましょう。
(1)新規融資における経営者保証ガイドラインの活用実績
経営者保証ガイドラインの活用実績は件数ベースでは次のようになります。
保証なしの新規融資が融資全件数に占める割合は順調に上昇しており、平成30年には35%強となっています。
また、金額ベースでの活用実績は次のとおりです。
金額ベースでは平成28年から50%を超えています。
金額ベースが件数ベースより多くなっているのは、借入額の多い規模の大きな中小企業が経営者保証ガイドラインを活用しているからでしょう。
企業規模の大きな中小企業は、管理レベルが小さな企業より高いため経営者保証なしの融資を受けやすいのでしょう。
(2)経営者保証ガイドラインにより保証契約を解除した活用実績
経営者保証付きの借入をしている中小企業が保証契約を解除した実績は次のとおりです。
実は既存の経営者保証付きの借入から保証をはずすのは実績を見る限り、簡単ではないようです。
新規融資に比べて既存融資における経営者ガイドラインの活用実績は件数ベースでわずか4%弱だからです。
このことから、経営者保証なしの借入をしたいなら新規に融資を受けるときがねらい目であることがわかります。
6.まとめ
経営者にとって経営者保証は心理的なプレッシャーがあるものです。
しかし、経営者保証ガイドラインが公表されたことにより、経営者の連帯保証を求めない融資も増えてきました。
もしあなたが、経営者保証したくないと思うなら、経営者保証ガイドラインを活用して、融資を受けましょう。
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