運転資金を借りたいと思っているが、自社の運転資金の必要額がいくらなのか分からない経営者もいるでしょう。
実は自社に必要な運転資金額は計算することができます。
この記事を読むことで運転資金の計算方法について熟知することができ、合理的な借り入れをすることができるでしょう。
1.経常運転資金とは?
営業を回していくために必要な資金のことを経常運転資金(正味営業運転資金)といいます。
商売は通常、現金支出が先行し、現金収入が後に続きます。
商品を仕入れて売れるまでの間に自己資金で足りなければ、不足分の運転資金を銀行から借りる必要があります。
なお、経常運転資金やその他事業資金の資金使途についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
2.自社に不足する経常運転資金の計算方法
自社の経常運転資金の過不足額(所要運転資金額といいます)について知りたいと思う経営者もいるでしょう。
この所要運転資金額は次のように計算することができます。
これらの数字は貸借対照表や試算表からすべて拾えるものです。
売上債権は受取手形と売掛金のことです。
前渡金は「手付金(内金)」の支払いをいい、商品などの購入に際して、取引先に代金の一部または全部を前もって支払った場合に使用する勘定科目です。
買入債務は支払手形と買掛金のことです。
前受金は、「手付金(内金)」の受取りをいい、商品などの販売に先立って得意先から商品代金の一部あるいは全額を受領した場合に使う勘定科目です。
なお、受取手形と支払手形は通常の営業取引(仕入や販売)以外の設備に係るもの(営業外手形)を除外して計算します。
また、受取手形には割引手形を含めて計算します。
3.所要運転資金額の計算式の意味
所要運転資金額の計算式から次のことがわかります。
営業取引によって入る予定の資金(プラスの経常運転資金)が支払う予定の資金(マイナスの経常運転資金)より大きい場合、つまり、計算結果がプラスの場合はその差額分の資金が不足しているということです。
なぜ不足するかというと、前述したように入る予定の資金より支払う予定の資金の方が先行するからです。
当然のことながら、この不足資金を自己資金で賄うことができないならば、銀行から借入する必要があります。
逆を言えば、十分な現金預金があるキャッシュリッチな会社は、たとえ計算上の所要運転資金額が不足していても運転資金の資金繰りに窮することはないということです。
たとえば、所要運転資金額が200万円不足しているとしても、現預金を5千万円持っているなら借入の必要性を感じないでしょう(今後のために銀行とお付き合いしておこうというのでなければ)。
もし、十分な現金預金がなく借入に頼らざるを得ない場合、所要運転資金額と借入金は次のような関係があります。
借入金が所要運転資金額の範囲内であれば、事業をしている限り返済に窮することはないと考えていいでしょう。
反対に、借入が必要な所要運転資金額を超えるようであれば、営業活動の回転で返済するのは難しくなります。
4.経常運転資金不足の改善策
必要な経常運転資金の不足によって借入を増やしすぎないようにするためにどうすべきかについては、所要運転資金額の計算式を見ればわかります。
それはプラスの運転資金を少なくし、マイナスの運転資金を増やすことです。
つまり、「プラスの運転資金 ≦ マイナスの運転資金」といった状態にあれば、借入金に頼らなくとも、運転資金の工面に窮することは少なくなるわけです。
プラスの運転資金を減らすためには、次の3つの方法があります。
- 売上債権の減少
- 在庫の減少
- 前渡金の減少
「売上債権の減少」のためには、売掛金や受取手形を減少させなければなりませんが、これは回収を早めることで実現できます。
在庫の減少については、難しいと考える人もいるでしょう。
しかし、デットストックやほとんど動きのない在庫を必要以上に保有しているということもあります。
長い期間、資金が寝てしまうような在庫の有無を精査し、処分を検討すれば、在庫を減少させることは十分可能です。
なお、過剰在庫を減らす方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
前渡金の減少も取引上、絶対必要であると考えずに、すべて信用で取引可能か検討する余地はあるでしょう。
この場合、プラスの運転資金が減少するとともに、マイナスの運転資金である買掛債務が増加するため運転資金の資金繰りは大きく改善する可能性があります。
一方、マイナスの運転資金を増加させるのは次の2つの方法になります。
- 買入債務の増加
- 前受金の増加
買入債務の増加は支払手形や買掛金の支払期日を伸ばすことで実現できます。
前受金の増加は取引先から手付金をなるべく多くとることで実現できます。
これらの方法は取引先との力関係や商製品の希少性などで変わりますが、取引上変えることができないと断定せずに、交渉を検討する必要があるかもしれません。
5.企業規模の拡大と経常運転資金
企業規模が大きくなるにつれて所要運転資金の額は大きくなっていきます。
これは経常運転資金回転期間の計算式からわかります。
経常運転資金回転期間は次のように計算します。
分子の所要運転資金は前節で計算した金額であり、分母の月平均売上高は損益計算書の売上高を12(ヶ月)で割った金額です。
たとえば、直近の経常運転資金回転期間が0.5カ月と計算できたとします。
もし、月平均売上高が100万円増加すると予想できる場合、50万円(100×0.5=50)の運転資金を追加で借り入れる必要があります。
まとめ
自社に必要な運転資金はどのくらいなのかわからない経営者もいるかもしれません。
所要運転資金額を計算すれば、運転資金の不足額がわかります。
そして、自社の所要運転資金を知ることで、過不足のない合理的な借入をすることができます。
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