経営するためには資金が必要ですが、この資金を事業資金といいます。
事業資金はその使途により、大きく「運転資金」、「設備資金」、「後ろ向き資金」に分けることができます。
お金に色はないので何にお金を使うか勝手であると考える人もいるでしょうが、そのような経営者は融資を受けることは難しいでしょう。
この記事により、基本的な資金使途の種類を知ることができるとともに、資金使途に関してやってはいけない行為を知ることができます。
そして、資金使途に熟知することで、融資をするのにふさわしい企業であると銀行から評価を受けることになるでしょう。
1.資金使途とは?
事業資金の資金使途の名称は人によって若干の違いがあります。
しかし、重要なことは事業資金の各名称を正確に覚えることではなく、資金を何に使うのか(使途)を具体的に説明できることです。
前述したように、事業資金は「運転資金」、「設備資金」、「後ろ向き資金」の3つに大きく分けることができます。
さらに「運転資金」は「経常運転資金」や「季節資金」、「賞与資金」、「決算資金」といった「その他の運転資金」に分類できます。
2.運転資金とは?
2-1 経常運転資金
経常運転資金とは、商売を回していくために必要となるお金のことです。
ビジネスでは通常、材料や商品仕入などに必要なお金が先に出ていき、販売することでお金が入ってきます。
この売れてお金が入ってくるまでの間、自己資金で賄いきれないことが多いので銀行から資金を融通してもらう必要があります。
経常運転資金の返済財源は売上金になります。
なお、販売が好調であると、仕入金額も当然増えます。
この増加分に対応して必要となる運転資金を特別に「増加運転資金」と呼びます。
また反対に、売上不振による家賃などの固定費支払のための資金が不足することもあります。
このために必要な資金を「減産運転資金」と呼びます。
銀行にとって経常運転資金の融資は企業と一蓮托生の関係になることを意味します。
なぜなら、運転資金は継続的に必要となるものなので、貸出を続けていかなくてはならないからです。
つまり、銀行は一度運転資金を融資すると、他の銀行に肩代わりさせるなどしないと貸金を回収できません。
ここが長い時間をかけて回収する設備資金や期日に回収できる納税資金などと大きく違うところです。
なお、自社の経常運転資金の計算方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
2-2 その他の運転資金
運転資金には、経常運転資金の他に「季節資金」、「賞与資金」、「決算資金」があります。
季節資金は季節商品の仕入で一時的に仕入れが増えることに対応した資金です。
賞与資金は従業員への賞与支払いのために必要な資金です。
決算資金は、配当金の支払い、役員賞与、納税のための資金です。
これらの資金の返済財源は売上金です。
実質的に借りっぱなしの経常運転資金と違い、これらは期日どおりに返済をします。
3.設備資金とは?
土地、建物、機械設備などの有形固定資産を取得するために必要な資金を設備資金といいます。
設備投資は企業の成長に必要不可欠なものですが、その投資結果の成否を現時点で判断できるものではありません。
経営環境の変化が厳しい今の時代にあっては、なおのことその投資の成否を判断することは難しいでしょう。
もし、設備投資に失敗すれば企業にとって大きな買い物であるがゆえ、命取りになる危険すらあります。
貸し手の銀行にとっても、投資の成否の判断は難しく、貸金の回収も長期にわたるので、返済財源、担保、他行からの借入の有無などが重要になります。
設備資金の場合、通常返済財源は「営業利益+減価償却費」となります。
そして、その返済財源で借入金が返済可能かどうかを銀行は見ます。
なお、このことは「債務償還年数」の記事で詳しく書いていますのでご覧ください。
4.後ろ向き資金とは?
後ろ向き資金は「赤字填補資金」や「回収不能になった不良資産の填補資金」です。
この目的のために借入をすることは非常に困難です。
なぜなら、この資金使途で借入する場合、会社に返済財源がないことが多いからです。
もちろん、業績が改善するようなら、黒字転換後の利益や遊休資産の売却によって返済財源とすることは可能です。
しかし、貸し手の銀行にとって、残念ながら返済財源の確実性は高くありません。
なぜなら、継続的に黒字を出せる財務体質にするのは口で言うほど簡単ではないからです。
また、遊休資産の売却にしても、そもそも売れるかどうかわからないし、希望価額で売却できるかどうかもわからないからです。
後ろ向き資金は、仮に借りることができたとしても、黒字転換に失敗し返済財源がないままであると、返済するたびに資金が足りなくなり、資金繰りは非常に苦しくなるでしょう。
5.資金使途はなぜ重要なのか?
お金に色はないのだから、返済しさえすれば、調達した資金を何に使おうが勝手であり、資金使途など重要でないと考える経営者もいるでしょう。
しかし、貸し手の銀行にとってはこのような単純な話ではありません。
何に使うのかという資金使途によって、何で返済するのかという返済財源が決まってくるので、銀行にとってはとても重要なのです。
先に説明したように返済財源は、運転資金なら売上金、設備資金なら営業利益に減価償却費を加えた額といったようにひも付きで決まります。
銀行はあなたを信頼してお金を貸したわけですが、それ以上に資金使途を信頼して貸したとも言えるのです。
資金使途と返済財源に重要な関係がある以上、借入先の虚偽の資金使途や返済資金の流用は銀行との信頼関係を深く傷つけることになりますので注意すべきです。
このような信義を損なう行為をした場合、借入金の全額返済を求められることもあります(この場合、一旦返済し、本来の資金使途で再度貸出の検討が行われる)。
まとめ
銀行から融資を受ける場合、資金使途について無頓着な経営者もいるでしょう。
実は、資金使途を知ることは銀行にとってとても重要なことなのです。
なぜなら、資金使途によって、返済のための財源が自動的に決まるからです。