実地棚卸は、多くの人員が作業に従事し、在庫の入出庫や生産ラインが停止します。
そのため、実地棚卸は、数量、品質などを正確にチェックするだけでなく、所定の時間内に完全に終わらせる必要があります。
正確性と速さが必要な実地棚卸が成功するためには、なによりも事前にしっかり準備しなければなりません。
この記事を読むと、事前準備として具体的に何をすべきかがわかります。
そして、事前に準備することにより、今までより精度の高い実地棚卸ができるようになるでしょう。
1.事前準備は具体的に何をすべきか?
実地棚卸のために事前にすべきことは次のとおりです。
- 責任者等の決定
- 実地棚卸の日時の決定
- 実地棚卸方法の決定
- 実地棚卸の対象品目の決定
- 在庫保管場所の決定(保管場所の明確化)
- 在庫の整理整頓
- 実地棚卸関係者への周知
次項より、各準備項目について詳しく解説します。
2.責任者等の決定
まず、実地棚卸の統括責任者を決定します。
大きな会社では、工場長などの上級管理職がこの任にあたりますが、中小企業では社長が実地棚卸統括責任者になるといいでしょう。
また、工場や店舗ごとに実地棚卸責任者を1名任命します(必要とあれば実地棚卸責任者を補佐する者も任命)。
さらに、在庫数量を数える担当者を決定します。
在庫のカウントは2名以上で行いますので、各持ち場毎に実施者を2名任命します。
在庫数量の多い会社などでは、実地棚卸は在庫の関連部署と直接関係のない従業員が行うこともあります。
こういった人たちは、実地棚卸の重要性についてピンとこないこともあります。
社長が実地棚卸の統括責任者になることで、実地棚卸が会社にとって重要であると再認識できるはずです。
3.実地棚卸の日時の決定
実施棚卸の実施日と時間を決定します。
実地棚卸の実施時期については、次の3つがあります。
- 定期棚卸(毎週末、毎月末、毎期末など)
- 常時棚卸(毎日)
- 不定期棚卸(随時)
毎期末に実施する実地棚卸は定期棚卸になります。
会社によっては、実施日を期末日(たとえば12月31日)にすることが難しいかもしれません。
そのような場合は、会社が決めた一定の日(期末日の1週間前、期末前の最終営業日など)を実地棚卸日に決めることもできます。
ただし、この場合は、実地棚卸日から期末日までの期間について、実地棚卸数量に帳簿上の受払記録を加減算して期末棚卸数量を確定することになります。
つまり、正確な在庫受払記録があることが前提になります。
時間はスケジュール表を作成するといいでしょう。
実地棚卸はおおよそ次のように進めて行きます。
- 実地棚卸の概要説明
- 実地棚卸開始
- 棚卸原票の回収
- 棚卸原票の回収チェック
- 実地棚卸まとめ(責任者の講評)
- 実地棚卸終了
それぞれの項目について、開始時間と終了時間を予定しておきます。
4.実施棚卸方法の決定
実地棚卸は次の2つのやり方があります。
- 一斉棚卸
- 循環棚卸
一定の日に一斉に行う実地棚卸が一斉棚卸です。
たとえば、3月31日を実施棚卸日と決定したなら、会社にある在庫を一斉に数え始めるわけですから、入出庫や工場の生産はストップすることになります。
一方、品目数や在庫点数が多く1日で終了させることが難しい場合に、毎日一定の種類の在庫について、一定期間にわたって順番に行うのが循環棚卸です。
循環棚卸は、一斉棚卸に比べて人員や時間が少なくすみ、また生産をストップさせる必要もありませんので良い方法だと思う人もいるでしょう。
しかし、循環棚卸は実際の棚卸日と期末日がずれるので、そのずれた期間については在庫の受払記録を加減算することにより期末数量を確定します。
そのため、在庫の受払記録が正確でないと、確定した期末数量も当然不正確になります。
ですので、実地棚卸方法は、一斉棚卸を原則と考えてください。
5.実地棚卸の対象品目の決定
実地棚卸日に所有する製品、半製品、仕掛品、原材料、商品が対象です。
自社倉庫にある在庫のみならず、外部倉庫や取引先に預けている在庫も実地棚卸の対象です。
反対に、自社倉庫に保有していても、自社の所有ではない取引先から預かっているような在庫は棚卸の対象外となります。
なお、棚卸資産残高がある貯蔵品は原則実地棚卸を行います。
6.在庫保管場所の決定(明確化)
在庫管理責任者は実地棚卸が正確に、そして迅速に行えるように棚卸資産の保管場所を事前に明確に定める必要があります。
①在庫保管場所の明確化
在庫の保管位置(ロケーション)を特定するために、ラックヤードに棚番号を付けます。
なお、棚番号のつけ方は下の図を参照にしてください。
また、フリーヤードエリアについてもロープなどを利用して保管位置を区分します(だとえば、「甲区画」、「乙区画」)。
②在庫品の収納場所の決定
在庫保管場所を明確にしたラックヤード、フリーヤードともに、在庫品の収納場所を事前に定めておきます。
③在庫保管場所の見取り図を作成
棚卸担当者が実施時に迷うことのないように、在庫の保管場所について、見取り図を作成します。
7.在庫の整理・整頓
在庫の保管は、できる限り同一品目は同一ロケーションに配置します。
所定の保管場所にまとめて収納し、同一品目がバラバラにならないように注意しましょう。
また、在庫が通路を塞いでしまっているようだと、棚卸作業がスムーズに進みませんので整理・整頓しておきます。
さらに、在庫をパレットに積む場合も、積み方や段数を統一しておきましょう。
こうすることで、カウント作業を素早く実施することができます。
なお、在庫保管場所の高さにも注意が必要です。
在庫がうず高く積まれ、動かせない状態だと、カウント作業が著しく滞ります。
実地棚卸の作業は、在庫を実際にカウントすることを忘れないようにしましょう(綺麗に整理整頓すれば良いというわけではない)。
整理整頓の際には、不良品(破損、劣化した在庫)、長期滞留品なども同一ロケーションにまとめて配置し、その旨明記しておきましょう。
また、他社に預けている在庫(預け品)は、実地棚卸実施日までに自社倉庫に戻しておくとよいでしょう。
戻すことができないときは、相手先から「預り証(在庫保管証明証)」を入手します。
反対に他社から預かった在庫(預かり在庫)については、実地棚卸日までに相手先に戻すようにします。
戻せない場合は、同一ロケーションにまとめて配置し、棚卸対象外と明記します。
8.実地棚卸の周知
実地棚卸を周知徹底するために、実地棚卸概要書を作成し、実地棚卸関係者に配布します。
概要書は実施日時、スケジュールなど前述の決定事項を記載します。
まとめ
実地棚卸は一定時間生産を止め、所定の時間内に正確に在庫品をカウントする必要があります。
実地棚卸を能率的に実施するためにはなによりも事前の準備が重要です。
参考記事