今ある借入金に経営者保証をしているため、不安に思う経営者の方もいるでしょう。
業績が悪化したりすると、経営者保証に対する不安が頭をもたげます。
「経営者保証に関するガイドライン」が公表されたことにより、経営者保証を提供しない借入が実務では定着しつつあります。
ですので、経営者保証を当たり前と思わずに、外すことを目標に行動するといいでしょう。
この記事を読むことで、既存の経営者保証を外す方法と外すことが難しい場合でもその代わりとなる方法を理解することができます。
1.今ある経営者保証は外せるのか?
既に借入金があり、その借入金に対して経営者保証をしている場合であっても、その保証を解除することはもちろん可能です。
しかしながら、銀行に保証契約解除の申入れをすれば、すぐに経営者保証を外すことができるとは考えないほうがいいでしょう。
なぜなら、銀行にとっての経営者保証は、貸金回収のための重要な手段なので、そう簡単に手放すはずがないからです。
実績を見る限り、既存の経営者保証を解除することはそう簡単ではないようです。
これまでに(政府系金融機関、平成26年2月から令和元年9月まで)、既存の保証契約を解除した累積件数は18,906件です。
一方、同期間に、無保証で新規融資された件数は348,313件です。
無保証の新規融資件数に対して、既存の保証契約の解除件数の割合はわずか5.4%ほどで、圧倒的にその数は少ないのです。
参考データURL:政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績
ガイドライン公表前は、融資の時に経営者保証を求められることは当然のことでした。これまで経営者保証を求められた会社のなかには、保証に頼らなくとも事業から十分な返済資金を確保できた会社があったかもしれません。
また、融資後、経営改善に取り組み続けたことにより、借入金返済に不安を感じない経営状況の会社もあるでしょう。
こういった会社は、今の保証が当たり前だと思うことなく、ガイドラインを活用して経営者保証を外すことに取り組んでください。
また、上記のような会社でなかったとしても、データに怯むことなく、経営者保証を外すため、前向きに行動を起こしてほしいと思います。
なぜなら、既存の経営者保証を外すべく行動を起こさない限り、連帯保証に囚われ続けなければならないからです。
実は、経営者保証なしの融資を受けるための条件は新規借入の場合も既存の融資を外す場合も変わりありません。
ということは、既存の経営者保証を外せるような経営状況になっていない限り、新規に借入する場合には経営者保証を求められるということです。
ですので、経営状況が芳しくない会社も、連帯保証の輪から逃れるため、経営者保証を外せるような経営状況になる努力をすべきなのです。
2.既存の経営者保証を外す方法
既存の経営者保証を解除するためには、次に掲げる経営状況を将来にわたって維持するように努めなければなりません。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
この3つの条件は経営者保証なしの新規借入をする場合と同じです(これらの条件については経営者保証なしの新規融資の記事で詳しく解説しています)。
なお、財務基盤を強化の度合いを判断し、改善に向けてどうすべきかわかる経営指標に「自己資本比率」や「債務償還年数」などがあります。
これらについては、「あきんどう」の記事なかで詳しく解説しておりますのでご覧ください。
3.条件は絶対に完備しなければならないのか?
ガイドラインに記載されている3つの条件は、すべて完備していることが望ましいと言えます。
しかし、3つの条件が完全でなかったからといって、経営者保証なしの借入ができないというわけでもありません。
金融庁が公表している『「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集』には、ガイドラインの要件は十分に充足していないにもかかわらず、経営者保証なしの借入ができた事例が記載されています。
これは、基本的にガイドラインが「経営者保証に依存しない」融資を促進し、融資メニューの充実を図るように銀行に対して求めているからです。
つまり、3つの条件(そのほか、経営者等から十分な物的担保の提供がある)が将来にわたって充足すると“見込まれる”ときは、銀行は経営状況、資金使途(資金使途についてはこちらの記事で解説)、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性や代替的な方法を活用する可能性を検討する必要があるのです。
当然のことながら3つの条件は「将来にわたって維持するように努めなければなりません」ので、どれか条件が欠けていたとしても前向きな取り組みを行い、早めに改善・維持しなければなりません。
4.経営者保証なし融資がダメな時の代替的方法とは?
代替的な方法は、停止条件又は解除条件付保証契約、ABL、金利の一定の上乗せなどです。
4-1.停止条件又は解除条件付保証契約
通常の経営者保証を提供しないけれども、代わりに条件付きの経営者保証を提供する方法です。
条件は、停止条件と解除条件の2つがあります。
停止条件付保証契約は、保証契約に付される特約条項(コベナンツといいます)に抵触しない限り、保証契約の効力が発生しません。
逆に、解除条件付保証契約は、コベナンツを充足する場合は保証債務が効力を失う保証契約をいいます。
一般的に、コベナンツの主な内容は次のようなものです。
- 役員や株主の変更等の銀行への報告義務
- 試算表等の財務状況に関する書類の銀行への提出義務
- 担保の提供等の行為を行う際に銀行への承認を必要とする制限条項等
- 外部を含めた監査体制の確立等による社内管理体制の報告義務等
経営者保証なしの融資とは違い、停止条件や解除条件も保証契約は取り交わす必要がありますが、常に保証契約の効力が発生しているというわけではありません。
ざっくり言えば、停止条件は約束(つまり、特約)を破らない限り、経営者保証の効力が発生しない、つまり、保証契約がないのと同じということです。
一方、解除条件は当初は経営者保証の効力があるけれども、約束を守る場合、経営者保証の効力はなくなります(つまり、経営者保証がないのと同じ)というものです。
4-2.ABL(Asset Based Lending)とは?
ABLは経営者保証を提供しない代わりに、担保を提供する代替的な方法です。
担保といっても、一般的な不動産ではなく、企業が保有する在庫や売掛金等を担保とします。
銀行は経営者保証を求めなくとも、在庫や売掛金等を担保にすることで、貸したお金の保全手段を確保できるわけです。
4-3.金利の上乗せ
経営者保証を提供しない代わりに、高めの金利を受け入れるという代替的な方法です。
経営者保証のような貸金の保全手段がないと、銀行は貸したお金が回収不能になった場合、貸し倒れのリスクが増大します。
このようなリスクの増大に対応するため、銀行は金利を引き上げるのです。
金利の水準は社内管理体制の整備状況や経営状況などによってそれぞれの会社で違ってきますので、比較検討できるように、経営者保証を提供する場合とそうでない場合の適用金利の違いを銀行に聞くといいでしょう。
まとめ
銀行にとってはある意味既得権益になっているため、今ある経営者保証を外すことは簡単なことではありません。
しかし、今ある借入金の経営者保証を外せないなら、資金が必要になり新規借入するとしても、経営者保証を銀行から求められる可能性は当然高くなるでしょう。
ですので、今ある経営者保証を外すことを目指す必要があります。
あなたに求められることは、経営していれば当然必要になることで、なにも特別なことを銀行は要求しているわけではありません。
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