競合のいない完全なブルーオーシャンを見つけでもしない限り、一般的には差別化が必要です。
あなたの商品と競合品にどこにも差がなければ、お客様は選ぶことができません。
そうなると、お客様はとりあえず、最低限のニーズを充たす最も安い商品を選びます。
こうして、消耗する価格競争は始まります。
そうならないためには、何としても競合品との間に“違い”を見つけ出さなければなりません。
本記事では、まず中小企業が陥りがちな「差別化」に対する3つの誤解について、次に、競合と明確な違いを生み出すための3つの差別化ポイントについてのお話しをします。
差別化の誤解その1:違いがある“はず”!
販売する側である私たちは、競合品との間に明確な違いがあると思っています。
だから、選ばれるはずだ・・・と。
しかし、お客様はその違いをなかなか分かってくれないので、ついつい価格の安さで勝負してしまいます。
もちろん、“価格の安さ”自体も競合品との違いではありますが・・・(後述)。
けれども、本音では無理な安い価格での勝負ではなく、競合品との違いを分かってくれたうえで、適正価格で販売することをあなたは望んでいるでしょう。
あくまでも、差別化する主体はお客様ですので、お客様が識別できないような“違い”はないのと同じです。
私たち売り手側があると思っている違いについて、はっきりと意識し、磨き上げていかなければなりません。
差別化の誤解その2:差別化ができる“はず”!
あなたのビジネスで競合と差別化するアイデアを思いついても、それを実行する「能力」がなければ、絵に書いた餅です。
たとえば、あなたが最高品質で勝負をしようとしても、最高の素材や最高の技術を調達できなければ、お客様に最高品質の商品を提供できません。
あるいは、いわゆる「おもてなし」で勝負するとして、お客様との密接なコミュニケーションやデータの蓄積を面倒であると思うなら成功するはずはないでしょう。
つまり、差別化は、それが“能力(お金、人、マインドなど)”的に実現可能なのかしっかり吟味し、能力を高めていかなければならないということです。
差別化の実現に向けて能力を高めていく努力は大変ですが、表側からは見えにくいので、あなたのビジネスに強い「優位性」をもたらすでしょう。
なぜなら、見えないため真似しにくいからです(表面上マネしても相手は評判を落とすだけ)。
差別化の誤解3:お客様は違いがわかる“はず”!
あなたに「これはと思う差別化のアイデア」が生まれて、その実現能力があったとします。
それで爆発的に売れるかと言えば、そんなことはありません。
なぜなら、“買う前の”お客様には違いがわからないからです。
もちろん、使ってみればその違いはわかるでしょう。
しかし、買う前のお客様にうまく伝えること(口頭でも、デモンストレーションでも)ができなければ、競合品との違いを感じることができません。
思うに、お客様が商品の違いを区別できる「目利きの能力」があると思うから、「お客様はわかる“はず”」という誤解が生じるのでしょう。
けれども、このような「目利き能力」があるのは、スペックなどを徹底的に調べることができるようなごく一部のお客様だけでしょう。
大部分のお客様は、実験室でしかわからないような微妙な技術的な差異について分からないはずです。
こういったお客様は「目利き」して最高品質の商品を選んだわけではなく、そのブランドだから安心ということで選んでいるのだと思います。
このことは、普通のお手頃な食材で作った料理が最高の料理に挑戦するテレビ番組を見ると分かります。
この番組は最高のレストランで食べなれている芸能人の方が、再現した料理ではなく、最高のレストランの料理を選ぶことができるのかというものです。
確か再現した料理の方が選ばれることが多かったように思います。
私たちの「目利き(味利き?)」能力は、かくもあいまいで不確かなものです。
ですから、ブランドに頼れない私たち中小企業は、違いを「伝える」ことが必要なのです。
ジャパネットタカタの高田社長が「伝える力」を重要視する理由がわかります(タカタも売っているものは家電量販店と違いはない)。
参考サイト ➡ ジャパネットたかた・高田明の「伝える力」(前編)
参考サイト ➡ ジャパネットたかた・高田明の「伝える力」(後編)
差別化のアイデア、その実行能力、そして「伝える力」の3つ揃って初めて差別化は成功するモノなのでしょう。
次に、どこで差別化するのかというアイデアを生み出すための3つの軸についてお話しします。
なお、その明確した差別化ポインと実行能力とお客様への伝える力についてはまた別の機会にお話しします。
競合との違いを明確にする3つのポイント
「差別化」という漠然とした言葉では、どこに違いがあるのかを明確にすることは難しいでしょう。
どこで差別化すればいいのかという点については、学者やコンサルタントによって、主張する差別化ポイントに違いがあるようです(実質的に違いはないと思いますが)。
その中から、著名なコンサルタントである佐藤義典氏がその著書「経営戦略立案シナリオ」の中で述べている差別化の切り口を紹介します。
- 手軽軸(早く、安く、便利)
- 商品軸(より良い商品・サービス)
- 密着軸(お客様のニーズに徹底的に応える)
この3つの切り口がそれです。
そして、佐藤氏は、基本的に3つの軸のどれかでナンバーワンになることと、その他でも平均点以上をとることが重要であると言います。
①手軽軸とは?
手軽軸は“安く”、“便利”に買ってもらうことで差別化します。
この手軽軸は、とにかく安さを追求した「最低価格型タイプ」と楽で買いやすいを追求した「利便性型タイプ」の2つに分かれます。
最低価格型タイプは薄利多売になります。
このため、最低価格で勝負しても利益が出るように原価を安くしなければなりません。
つまり、効率のいい生産設備で大量生産したり、大量仕入れをしたりと規模の経済を追求することが必要です。
ですから、基本的にお金や人材を多く持つ大きな企業が取り得るものであり、経営資源が乏しい中小企業は厳しいと考えた方がいいでしょう。
一方、利便性型タイプは提供方法で差別化します。
典型はアマゾンです。
どこで買っても内容自体は同じという“本”自体で勝負するのではなく、届けてくれるという利便性、逆を言えば、本屋に行き、本を探し、かさばる本を持って帰るという面倒から解放してくれることで勝負します。
このタイプの場合、宅配サービスを付加しているので、商品を最低価格で提供することは難しくなるのが普通です。
②商品軸とは?
商品軸は「商品・サービス自体の良さ」で差別化します。
より新しいモノ、より良いモノを求める高級品志向のお客様を対象にします。
また、“最高”のモノなので価格は必然的に高価格帯になります。
商品軸も「最高技術型タイプ」と「最高品質型タイプ」の2つに分かれます。
最新技術のCPUを矢継ぎ早に出しているインテルはこの最高技術型タイプです。
この最高技術型タイプの場合、高度な技術開発競争をしなければならないので、多額の開発費などが必要です。
一方、最高品質型タイプは、素材や加工技術(例えば機械加工ではなく、熟練の職人の手による)などにこだわった良質の商品で勝負します。
最高品質型タイプはルイ・ヴィトンなどのブランドをイマージするといいでしょう。
商品軸の最高技術型タイプの差別化は、経営資源の乏しい中小企業にとっては難しいと言えます。
したがって、商品軸でナンバーワンを目指すなら、最高品質型タイプということになるでしょう。
③密着軸とは?
わたしのわがままを叶えて欲しいというお客様のニーズに応えることで差別化します。
最高の“おもてなし”や少数の顧客ニーズにあった商品・サービスを提供します。
お客様のニーズに応える密着軸はお金がかかることが多いため、価格は高めの設定になります。
密着軸も「顧客密着型タイプ」と「カスタマイズ型タイプ」の2つに分かれます。
顧客密着型タイプは、いわゆる「リレーションシップマーケティング」です。
お客様との関係性を深め、お客様が何を望んでいるか把握することで、その人にあった商品やサービスを提供していくことになります。
サザエさんに出てくる三河屋さんがこの顧客密着型タイプの典型的なイメージです。
“モノ”自体で勝負しにくい小売りなどは、この顧客密着型タイプが適しています。
商品自体は変えられなくても、お客様に寄り添うことで、お客様のニーズに合致した商品のアドバイスなどできるからです。
一方、カスタマイズ型タイプは、パソコンの通販でおなじみです。
たとえば、デルはCPUやハードディスクの容量などをお客様の好みによって変えています。
このように生産工程の基本は変えずに、少しだけお客様の好みに変えることができるカスタマイズの方法を「マスカスタマイゼーション」と言います。
ラメーン屋の「油多め、麺硬め」、カレー屋の「辛さの指定」などもそうです。
もちろん、可能な限り、お客様の好みに変えるカスタマイズもあります。
オートバイのハーレーダビッドソンディーラーである昭和の森店ではお客様の細かいニーズに応えるために6千点もの部品を用意しているそうです。
この密着軸は意識している、していないにかかわらず、中小企業でよく見られます。
以前紹介したさくら住宅も、地域と密接な関係を築くことを重要視しているのでこの密着軸で勝負しているように思えます。
参考記事 ➡ 儲かる社長の戦い方!!
参考図書 ➡ 経営戦略立案シナリオ(佐藤義則著)
関連記事 ➡ 顧客、自社、競合の3つで、マーケティングの基本を理解する方法
まとめ
差別化のアイデアを具体的に考えるのは難しいものです。
それは、私を含めて、考えるための道具を持たないからです。
多くの学者やコンサルタントがこの差別化を考える切り口を提供していますが、多いと迷ってしまうものです。
この記事では、差別化を考える切り口として3つの視点を紹介しています。
この3つの視点で差別化のアイデアを生み出し、その実行能力を高め、お客様にうまく伝えることができれば、競合に大きな差をつけることができるでしょう。