ビジネスにおいて「顧客志向」は当たり前すぎる言葉です。
この「顧客志向」を表す言葉は「顧客満足」、「Win-Win」、「卓越の戦略」などいろいろあります。
そもそも「顧客志向」といった考え方は、今から50年ほど前にハーバード大学のT・レビット教授が広く知らしめました。
しかし、300年ぐらい前から、近江商人はもっと優れた考え方で商売をしていました・・・
それは「三方よし」です。
三方よしとは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」となるように商売をしなさいということです。
つまり、売り手の都合だけで商売するのではなく、買い手が心から満足し、さらに言えば商いを通じて地域社会の発展などに貢献するという商売の哲学です。
「三方よし」の考え方を徹底し上手くいかないなら、その理由を探すほうが難しいくらいです。
売り手が無理な値下げなどで自分だけを犠牲にすることをしなければ、買い手にもっと満足してもらうためによりよい商品を提供できます。
それによって、買い手が心から満足すればリピートしてくれるでしょうし、他の人を紹介してくれることでしょう。
そうやって、商売がどんどん大きくなっていきます。
さらには、適正な儲けを通してお金が増えるので、世間に対してなんらかの貢献活動を実施することも可能です。
こうなると、今度はその世間の中から新しい買い手がでてきます。
つまり、「三方よし」は経営に好循環をもたらす考え方なのだと思います。
しかし、「三方よし」と言われて、「物凄くない!この考え方って!!」と驚き、感動する人はそんなにいないでしょう。
なぜなら、日本に住む経営者にとって、なんとなく当たり前の考え方だからです。
当たり前のように感じるのは、たとえ商売人でなくても私たちのDNAに刻み込まれているからでしょう。
実際、日本を訪れる観光客の方が、自国では味わえない日本の商売のすばらしさを話しているのを見たり、聞いたりします。
しかし、個々の企業を見てみると、多くの企業は苦戦を強いらています。
このようなすばらしく優れた考え方を当たり前のように受け止めることができる私たちが、です・・・。
それは何故なのでしょうか?
一つは日本でも長いスパンで商売を見ることができなくなっているからでしょう(長期的経営がむずかしくなった)。
「三方よし」は長い年月をかけて信用(ブランドも)を築きあげていきます。
短期的には大きな利益を追求しないので、儲けは少ないとしても(短期的に見れば損したとも言えます)長期的にはしっかり儲けさせていただくという考え方です。
これが、効率性重視の現代にはなかなかなじまないのです。
つまり、効率性重視の時代にあっては、売り手の利益だけを重視してしまいがちになるということです。
もう一つは、私たちはスローガンに弱いからではないかと思っています。
「三方よし」は現代でも十二分に通用する優れた考え方ですが、ともすれば、このスローガンを掲げるだけで満足してしまいがちです。
当然のことながら「三方よし」は実践を伴わなければ大した意味はありません。
スローガンで満足してしまうのは、具体的にこの考え方をどう実行していけばいいのという行動指針がないためです。
この点、アメリカ発の経営学書はスローガンで満足しがちな人間に、行動指針、つまりいい意味でのマニュアルを提供してくれることが多いような気がします(アメリカ人はこういうことに長けているなぁと思います)。
私たちにはもともと商売の素晴らしい哲学をもっています。
この素晴らしい哲学を実践に生かすために、アメリカ発の経営学を毛嫌いせずにどんどん利用していきましょう。