昨今、「働き方改革」といった言葉をよく聞きます。
この話は経営指標で言えば、「労働生産性」の問題です。
昨今の厳しいビジネス環境の中で、利益を上げるなら、より少ない経営資源(人やモノなど)で実現できた方が良いに決まっています。
労働生産性はあなたのビジネスのパフォーマンスを知るための指標です。
しかしながら、労働生産を高めることは口で言うほど簡単なことではありません。
この記事を読むことで労働生産性について次のことがわかります。
- 計算方法
- 意味
- 目安
- 改善方法
これらを理解することで、あなたのビジネスのパフォーマンスを高めるため、本当の意味での生産性を高めるにはどうしたら良いか分かるでしょう。
1.そもそも生産性とは何か?
生産性とはインプットに対してどれくらいのアウトプットがあるのかを意味します。
売上高などのアウトプットがいくら大きくても、それを生み出すためにインプットを大量に投入しているようでは効率が良いとは言えません。
ビジネスでは最小の努力で最大の成果を上げることが評価されるのです。
生産性はあなたがビジネスのパフォーマンスを評価するのに重要であるばかりでなく、銀行など会社外部の者にとってもあなたの事業を判断する上で、役立つ指標です。
2.生産性の経営指標にはどんな種類があるのか?
この生産性を見る経営指標にはどんなものがあるのでしょうか?
生産性には労働生産性と資本生産性というものがあります。
多くの中小企業は労働集約型であると思います。
ですので、労働生産性の指標を自社のパフォーマンスを評価するのに使うといいでしょう。
3.労働生産性とは?
①労働生産性の計算
労働生産性は次のように計算します。
労働生産性=付加価値額 / 従業員数
分子の付加価値額については、加算法と控除法いう2つの計算方式があります。
私たち中小企業は、簡単に手に入る中小企業庁の統計資料(たとえば中小企業の実態基本調査)を自社との比較検討するために参考にすることが多いと思いますので、そこで採用されている加算法での計算を覚えておけばいいでしょう。
加算法による付加価値額は以下のように計算します(中小企業の実態基本調査)。
付加価値額=労務費(売上原価)+減価償却費(売上原価)+人件費
+地代家賃+減価償却費+従業員教育費+租税公課
+支払利息割引料+経常利益
項目がたくさんあるので、会計に詳しくない経営者の方は見たくないと思うかもしれませんが、いずれの項目も損益計算書(あるいは製造原価報告書)から簡単に拾えます。
どうしても嫌だという方は顧問税理士に相談して計算してもらいましょう。
また、分母には従業員数ではなく労働時間を使うこともありますが、経営分析では従業員数を使うケースが多いようです(数字が取りやすいから)。
(控除法による付加価値額の計算)
控除法は次のように計算します。
・製造業
付加価値額=生産高-(材料費+買入部品費+外注工賃)
・卸売・小売業
付加価値額=売上高-売上原価
・不動産・サービス、通信業など
付加価値額=売上高-直接材料費
なお、厳密には製造業の「生産高」は売上高とイコールではありません。
たとえば、完成してまだ販売していない物も「生産高」に含まれるからです。
しかし、このような計算は複雑で難しくなりますので「生産高」=「売上高」で計算してもいいでしょう。
なお、付加価値額を加算法、控除法のどちらで計算しても理論上は一致しなければおかしいのですが、計算項目の違いにより現実には計算結果が異なります。
いずれの方法で計算するにせよ、自分のビジネスと比較対照する統計資料がどのように付加価値額を計算しているのかを確認し、適した計算方法を採用しましょう。
②労働生産性の意味・見方
労働生産性は従業員一人当たりどのくらいの付加価値額を生み出したのかを計算するのですから、計算結果は大きいほど良いということになります。
抽象的な言い方をすれば、労働生産性はより少ないインプットでより大きい成果をあげることで向上します。
③労働生産性の目安
労働生産性の目安を一律に示すことはできませんが、参考までに業種別の労働生産性の平均値をあげておきます。
- 建設業 5991千円
- 製造業 5481千円
- 情報通信業 5886千円
- 運輸業 4759千円
- 卸売業 6236千円
- 小売業 3812千円
- 不動産・物品販売業 10455千円
- 専門・技術サービス 5844千円
- 宿泊業・飲食サービス 2504千円
- 生活関連サービス・娯楽業 4436千円
- その他サービス業 3415千円
属する業種の平均値を超えると、あなたのビジネスの労働生産性は高いと言えるでしょう。
2.労働生産性の改善方法
①計算式から分かる改善法
労働生産性をあげるためには、「付加価値を上げる」のか、「従業員を減らす」のかということになります。
労働生産性↑=付加価値額 ↑ / 従業員数↓
中小企業の場合、人で不足で悩んでいるところも多いでしょう。
ですので、従業員を減らすということについては考えないでおきましょう。
となると、労働生産性を上げるのは付加価値額を向上させるしかありません。
では、付加価値を上げるためにはどうしたら良いのでしょう?
②付加価値を上げる方法
加算法での付加価値額の計算は項目が多いので、話を単純にするためにそのなかで重要な「人件費」と「経常利益」に絞って考えます。
こうすることで、項目の多い付加価値額の計算式が次のようにシンプルになりました。
付加価値額=人件費(売上原価の労務費も含む)+経常利益
実は付加価値をあげることが難しいのは、計算式の項目にトレードオフの関係があるからです。
たとえば、良い人材を確保して売上を増大させるとします。
計算式から分かるように、人を雇うことで人件費が増えますから付加価値額の計算ではプラスに作用します。
しかし一方で、人件費の増加で経常利益は減少しますので、付加価値額にマイナスに作用します。
つまり、人材の確保が付加価値額の増加にどのような影響があるのか計算式で示すと、
人件費↑+経常利益↓=付加価値額↑or↓
となります。
良い人材を雇ったとしても必ず付加価値額が増加するかどうか分からないのです。
なお、昨今の「働き方改革」の議論も労働生産性の計算式で考えてみましょう。
たとえば、残業を少なくし、効率をあげる(つまり、より少ないインプットで同じ成果をあげる)とします。
この場合、付加価値額に対する影響は、次のようになります。
人件費↓+経常利益↑=付加価値額↑or↓
残業代が減ることで人件費が減少しますので、付加価値額に対する影響はマイナスです。
一方で、人件費の減少により、経常利益は増加しますので付加価値額に影響はプラスになります。
人材の確保と同じように付加価値額は増加するのか減少するのか実際には分かりません。
むしろ、生活給でもある残業代が減ることで従業員のモチベーションが悪化し、経常利益は下がってしますかもしれません。
③本質的方法は利益をあげるしかない!?
もちろん、ダラダラと仕事をしている人に給料を支払えるほど甘い環境でなくなってきているので効率性を考えることはとても重要です。
しかし、生産性は人に係る問題であるため、労働時間を削ったり、人を減らしたからといって必ずしも生産性があがるといものではありません。
中小企業が生産性をあげるために優先すべきは「利益をあげる仕組み」を作ることではないでしょうか?
もし、あなたが「利益をあげる仕組み(ビジネスモデル)」を持っていないなら、あなたのビジネスでの勝ちパターンを確立することが何より優先されるべきだと思います。
また、そういった仕組みを持つことで、従業員のモチベーションを高めることが可能になり、労働生産性を本質的に高めることができるものでしょう。
3.まとめ
労働生産性をあげることは口で言うほど簡単ではありません。
労働生産性を高めるための本質は付加価値額の中の「利益」にあります。
つまり、「利益獲得の仕組み」を作ることが遠回りに見えますが、労働生産性をあげる最大のポイントになります。