無借金経営は魅力的な響きを持っています。
資金の融通のためにペコペコする必要もないし、日々、資金繰りに頭を悩ますこともなくなるかもしれません。
経済的自由を得るための目指すべき目標であるかのように感じるでしょう。
しかし、中小企業にとって、無借金経営は現実的なのでしょうか・・・?
無借金経営と言えば、トヨタです。
実際のトヨタ自動車は無借金というわけではありません。
実際には2017年3月期で借金(社債などを含む)が19兆円ほどあります(ちなみに日本の国家予算は100兆円弱)。
この19兆円の借金は子会社などを多く抱えているトヨタ自動車の連結ベースでの金額です。
そして借金のほとんどは、トヨタファイナンスリースなどの金融子会社のものです。
トヨタ自動車単独では借金は驚くほど少ないのです。
ちなみに、トヨタ自動車単独での有利子負債比率は、3.5%弱です(さらに、有利子負債の約95%が社債)。
参考 ➡ 有利子負債比率を改善する2つの方法!
製造設備にお金が掛かるトヨタ自動車のような会社では、この数字は実質的に無借金と言っていいと思います。
しかしながら、トヨタが無借金経営になるまでには相当な苦労を長い期間してきたわけです。
トヨタはカンバン方式という世界的な有名な生産管理方式が効率的な生産を支えているように、研ぎ澄まされた資金管理の方法が無借金経営を支えているはずです。
つまり、一朝一夕に「無借金経営」などできるものではないのです。
中小企業は無借金経営が多い!?
一方、大きな設備など必要としない中小企業にとっては無借金経営は当たり前です。
商売を大きくする予定もなく、日々の経営で運転資金が回っていれば借金する必要を感じないでしょう。
逆に、運転資金が回っていないような会社は借金をしたくとも難しいでしょう。
だから、これらの会社ではないのに、無借金経営を目指す会社は、おそらく相当な覚悟があるのでしょう。
無借金を目指すべきか、目指すべきでないか?
結論を先に言ってしまうと、中小企業は無借金経営を目指すべきでないと思います。
なぜなら、借金したほうが手っ取り早いからです。
もちろん、より有利にそしてスムーズに借金するためには財務力の強化というあなたの努力が必要ですが、無借金経営に要求されるレベルの高い資金管理に比べればずーっと楽です。
歩かなくてすむいばらの道をわざわざ選んで歩く必要はありません。
また、理論的には適度な借金は望ましいのです。
あなたは出資という形で投資しています。
そして、この出資されたお金によって、あなたの会社は利益を稼いでいくわけです。
このあなたの出資したお金と今まで会社が稼いできた利益が「自己資本」、つまり毎年の経営の元手となります。
もし、あなたが投資した結果が良いのか、悪いのか見たい場合、
自己資本利益率(%)=利益÷自己資本
という指標で投資効率を見るのがいいでしょう(なお、自己資本利益率はこちらの記事で詳しく解説しています)。
実は“適度な”借金をしたほうが、無借金より自己資本利益率は良くなります(「財務レバレッジ効果」といいます)。
さらに、銀行との取引実績があると、追加の融資が必要な場合であっても、新規借入するよりスムーズに融資を受けることができます(もちろん、あなたが約定どおりしっかりと返済した場合ですが)。
感覚的なお話をしましょう。
あなたのビジネスは儲かってしょうがない状態です。
新たに出店を計画していますが、自己資金では足りないとします。
このような場合、自己資金にこだわっていると(つまり無借金)、お金が貯まるまで出店を諦めなければなりませんが、それではビジネスチャンスを確実に逃します。
それより、スピーディーに借入をして儲けの機会を拡大したほうがいいことはあなたも分かるのではないでしょうか?
銀行を毛嫌いする必要はありませんよ!
確かに、銀行は「雨の日に傘を貸さない(必要な時に融資してくれない)」ということもあったでしょう。
しかし、考えて見れば銀行は適度な距離感で最もビジネスライクに付き合える相手です。
好き嫌いの感情に流されることなく、冷静に対応しほうが絶対にお得です。
あなただって、必要だからお金を貸してくれという人にお金をすぐには工面してあげないでしょう。
たとえ、長い付き合いの友人でも・・・。
銀行だってあなたと同じです。
反対にあなたが友人にお金を借りる側だったらどうでしょう。
やみくもに必要だからお金を貸してくれないかとは言わないはずです。
タイミングや理由などいろいろな作戦を練るはずです。
あなたは、貸し手である銀行に合わせた対策をとってきたでしょうか?
むしろ、銀行から借りる方がとるべき対策が分かっているので借りやすいとも言えます。
ですから、銀行が嫌いという理由で無借金を目指すのではなく、あなたの会社にとってどちらが“お得”なのかを冷静に判断する必要があります。
まとめ
銀行との嫌な思い出から毛嫌いする経営者もいますが、あなたのビジネスが借入金を必要とするなら、迷わず金融機関から借りるべきです。
無借金経営という幻想に惑わされてはなりません。
無借金経営は口で言うほど簡単ではないからです。
借入しやすいような財務力をつける方がそれより簡単です。
実際、理論的には適度に借金をしたほうがいいのです。
また、すべきことをしっかりしていれば、無理な要求をしてこない銀行は適度な距離感でビジネスライクに付き合うことができるのでストレスがありません。
感情に流されることなく冷静に銀行と付き合っていくことが中小企業にとっては「お得」です。