金融機関は債務者を返済能力に応じて十数段階にランクづけしています。これを「信用格付」といいます。
参考: 商道記事 「銀行に好かれるために信用格付を利用せよ!」
銀行はこの格付を基礎として、融資の可否や貸出可能額、金利などの諸条件を検討します。経営者にとって、資金調達の成功・失敗を左右する格付は当然気になるところです。
融資申請に先立ち自社の格付や改善しなくてはならない項目が明らかになれば、スムーズな資金調達に備えて対策をとりやすくなりますが、金融機関は個別企業の格付については基本的に開示してくれません。
会計事務所によっては顧問先に財務分析データを参考として提供することがあるようですが、独力でお金をかけずに格付対策を行う方法もあります。
金融機関による格付方法
信用格付の結果は、決算書に基づく財務評価が大きなウェイトを占めています。
決算書をもとに安全性、収益性、成長性、生産性、債務償還能力などに関するいくつかの財務指標を算出し、それぞれの財務指標を点数化した合計スコアがランクづけの基礎点となります。
この基礎点に、定性要因による加点・減点、経営実態を勘案した調整により、最終的なランクが決定します。
財務はシステムによる自動評価
財務評価は与信管理システムに決算数値を入力することによって行われます。
与信管理システムの評価モデルは金融機関により多少の違いはありますが、評価結果とそれに基づく融資判断には大きな違いはないと考えられます。どの金融機関も監督官庁の金融庁が示す「金融検査マニュアル」に従って債務者を評価しているためです。
金融機関が一般的に利用するスコアリングモデルと同様な評価システムにより、自社の財務内容を評価できれば、自社格付を推測し、格付改善のヒントを得ることができるはずです。
これに適しているのが、中小機構が提供している、誰でもすぐに無料で利用できる財務分析ツールの「経営自己診断システム」です。
経営自己診断システムとは : 中小機構「経営自己診断システム」
一般社団法人CRD(中小企業信用リスク情報データベース)協会に蓄積されている200万社以上の中小企業の財務データを活用しています。
すべての信用保証協会は保証料率の決定に、このデータを基にした信用リスク分析結果を利用しています。
「経営自己診断システム」は、保証協会が利用している評価システムと全く同じではないものの、金融機関による財務評価結果に近い診断結果を提供していると予測できます。
経営自己診断システムの利用方法
WEBサイトのフォームに、自社の業種や決算書の数値を入力するだけで、即時に財務状況と経営危険度を把握できます。ユーザー登録は不要で、自社の財務データの一部をシステムへ入力することで、次の3項目の診断をしてくれます。
1.財務分析
診断項目(収益性、効率性、生産性、安全性、成長性)に関する27の指標が算定されます。
2.国内同業種中小企業の中の位置づけ
算定される27の指標について、同じ業種に属する企業の値を良い順に並べたとき、①ちょうど真ん中に位置する数値と、②値が良好とされる側から数えて上位30%に位置する数値が表示されます。
この数値と自社の値を比較することで、業界内における自社の相対的なレベルを把握できます。
3.経営危機度の表示。
安全性の10指標(自己資本比率、借入金月商倍率、預借率など)について、同業のデフォルト企業の中央値と業界標準値(中央値)が表示されます。これらの財務指標値と対比することで自社の財務健全性を計ることができます。
格付改善への活用法
1.直近の決算書による現状把握
診断結果は、同業の上位企業の指標と、全企業の指標の中央値が提供されるところに特徴があります。この指標と自社指標を比較することで、自社の財務的な強みと弱点を把握することができます。
上位30%値より優れている財務項目は自社の強みとみてよいでしょう。
反対に中央値より劣っている指標は自社の弱点と認識すべきです。
2.次期決算の目標の設定
格付アップを効果的に実現するには、良好な指標をさらに向上させるよりも、弱点指標の改善を優先すべきです。
財務指標の改善目標を設定し、次の決算でこの指標を達成できるように決算書への影響を意識した事業活動をおこなうことが必要です。あわせて財務戦略的な決算対策を打つことで格付のアップが期待できます。
3.銀行との交渉準備
弱点に関して融資審査で深く質問される可能性があります。
診断結果をもとに自社の財務的な問題をよく検討し、金融機関に対して弱点をカバーする対策や改善計画を明確に説明できるようにしておけば、前向きな対応が期待できます。
まとめ
「経営自己診断システム」は、自社の財務内容の弱点を把握でき格付改善に役立つ便利な無料ツールです。ぜひ利用してみてください。