資金の貸し手は相手を3分類します。
カテゴリー1: 「融資したい先」
カテゴリー2: 「条件しだいで融資できる先」
カテゴリー3: 「融資できない先」
創業期の会社はカテゴリー2に該当することが多いと思います。金融機関からの積極的な対応は望めなくても諸条件を整えて創業融資を受けることは可能です。
ただし、財務への注意を怠っていると、あっという間に「カテゴリー3」に転落してしまう点に注意しなくてはいけません。起業して1~2年後に財務内容がネックとなり融資を受けられず、思うような事業活動ができなくなる会社は少なくありません。
「融資できる先」と「融資できない先」を分けるラインを理解して、融資を受けられる財務レベルを維持することが大切です。
融資を受ける財務面の最低条件
条件①債務超過ではない
条件②連続赤字ではない
創業直後は二期連続で赤字となることは特に珍しいことではなく、それだけで事業の失敗とみなされるわけではありません。
ただし、大きな赤字額を出して債務超過に陥ってしまうと、その後は事業が軌道に乗り財務内容が改善するまで金融機関からの融資獲得は大変難しくなります。
裏返せば、開業初期にコストが先行発生し赤字となったとしても、債務超過は回避して、黒字化が見込まれ成長できることをきちんと説明できれば、融資獲得の可能性があるということです。
【復習】そもそも債務超過とは?
債務超過とは、貸借対照表において負債の額が資産の額より大きい状態です。
債務超過 : 資産<負債
貸借対照表では次の関係が成り立っています。
資産=負債+純資産 ⇒ 資産-負債=純資産
したがって、債務超過とは純資産がマイナスの状態といいかえることができます。
債務超過 : 資産 - 負債 = 純資産 < 0
さて、この純資産は、「資本金」と「利益剰余金」で構成されます。
純資産 = 資本金+利益剰余金
「資本金」は起業家(及びその支援者など)が会社に拠出した事業の元手です。
「利益剰余金」は会社が事業活動により獲得した利益を積上げた額で、会社内部に蓄積されているものをいいます。黒字により増加し、赤字により減少します。
事業の不振により赤字が生じると、「利益剰余金」が減り「純資産」が減少します。 赤字が続くといずれ「純資産」がゼロとなり、そこからさらに赤字が生じると債務超過(純資産がマイナス)となってしまいます。
【数値例】起業家A氏いきなり債務超過
起業家A氏は資本金100万円で会社を設立しました。創業計画では第1期は売上高1,000万円、諸費用を700万円とし、初年度は300万円の黒字を見込んでいました。
ところが、開業したものの事業の本格的始動がずれ込み、あてにしていた見込客との契約も不調に終わったこと等から、売上高は500万円に止まりました。その一方、事務所の賃借料などの諸費用は計画通り700万円発生しています。
結局A氏の会社の第1期決算は、一転して200万円の赤字となり、100万円の債務超過(①資本金100万 + ②利益剰余金△200円 = 純資産△100万円)となってしまいました。
<h2.「創業、いきなり債務超過」を回避する方法
純資産 = ①資本金+②利益剰余金
債務超過(純資産がマイナス)、となってしまうのは、②赤字によって利益剰余金がマイナスとなり、それが①資本金の額を超えた場合です。したがって、赤字の金額を抑えること、または資本金を大きくすることが債務超過になりにくくする方法となります。
もちろん初年度から黒字化できれば「いきなり債務超過」に陥ることはありません。しかし創業期は事業が安定せず計画通りの業績を達成できないことが多くあります。以下では黒字を確保できるか不透明なケースを前提として説明します。
1.大きめの資本金ではじめる
資本金を増やすことで赤字がでても債務超過になりにくくする方法です。
あまりに小さい資本金でスタートすると、「いきなり債務超過」になってしまう可能性が高まります。会社の設立において資本金の額は自由に決めることができますが、財務の安全性を高めるためにはある程度大きめの資本金でスタートすべきです。
上述の【数値例】では、仮に資本金を300万円としておけば、第1期決算では純資産は100万円のプラスとなり、「いきなり債務超過」にはなりません。
あきんどう記事:
2.最初から月次決算を導入する
年度の途中の経営状況を定期的にチェックし、事業活動を修正することで、年度決算が多額の赤字とならないようにする方法です。
利益目標の達成には、適切な利幅を確保しながら売上を積み上げていく必要がありますが、そのマネジメントには月次決算が有効です。
開業直後から月ごとに経営実態を財務数値で表すことにより、年度損益がいくらの黒字になるのか(又はいくらの赤字になるのか)見通しを立てることができます。また、月次の実績と計画の差異原因を分析して、迅速に対策を講じることで、収益力アップに役立てることができます。
このようにメリットの大きい月次決算ですが、残念なことに起業直後の会社では積極的に活用しているケースは多くないようです。起業家は、自社の商品やサービスの価値を高めることや顧客獲得には熱心に取り組んでいます。その反面、財務会計への関心は一般的に低く、1年目決算の税務申告時に初めて自社の財務情報を目にするという経営者もいるようです。
財務内容を適時にチェックしないことの最大の問題は、解決すべき課題の認識が遅れ、わるい経営を続けてしまう危険があることです。その対応遅れの傷が深くなった状態が「いきなり債務超過」です。
月次決算を通じて事業上の問題を早期に発見できれば、販売活動のテコ入れや支出の抑制など様々な対応策をタイムリーに実施できるようになり、決算内容を改善できる余地が大きくなるのです。
月次決算の実施と活用には、ある程度の会計知識と社内の仕組みが必要です。開業時にすべてを社内で対応することは簡単ではないかもしれませんが、それを理由に業績の把握を先送りすることは避けなければなりません。会計事務所など外部の専門家を利用して最初から月次決算を行なうことを検討してみてください。
あきんどう記事:
まとめ
創業時の財務軽視は、初年度の財務内容を極端に悪くし、その後の事業活動の足枷となってしまう危険があります。少なくとも「いきなり債務超過」にならないよう、小さすぎる資本金で会社を立ち上げる財務上のリスクを理解して、リアルタイムに業績把握できる仕組みをつくることが大切です。