財務比率などの分析により、会社の弱点を知った後は、勘定科目を分析して原因を特定していかなければなりません。
逆を言えば、勘定科目を分析し、おかしなところを発見しても、それを修正できなければ、財務比率などの結果を過大に、あるいは過少に評価してしまうかもしれません(そして、致命的に間違った行動をする)。
前回は、流動資産の勘定科目を見ましたが、今回は固定資産です。
固定資産には有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産、繰延資産があります。
中小企業の場合、固定資産のほとんどが有形固定資産であり、その他は金額的には大きくないのが普通でしょう。
これら固定資産を見るときにの目のつけどころは何でしょうか?
有形固定資産は「有形」ですから、モノがあります・・・
まず、有形固定資産の勘定科目ですが、これは建物(建物付属設備含む)、構築物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品、土地などです。
あなたの会社の有形固定資産が、この勘定科目のどれに該当するかイメージできない人は多くないでしょう。
その他に、建設仮勘定といった勘定科目があるかもしれません。
これは、たとえば、建設途中の建物や機械設備に対する支出を処理するための勘定科目です。
建設中で使っていないので、減価償却費は計上しません。
なお、土地も使用や時の経過で価値が減らないため、減価償却費を計上しません。
有形固定資産は、物理的に存在します。
そして、土地、建設仮勘定以外は“毎期”減価償却をして、帳簿上正しい価値を示すように修正します。
参考記事 ➡ 知らないうちにお金が貯まる減価償却!減価償却の自己金融機能とは?
有形固定資産の目の付け所は「帳簿が価値を反映しているか」ということになります。
ケース1:帳簿にあるのに実物がない?
実物を除却したのに、帳簿で消し忘れた場合(除却の会計処理)にこのようなことが起こります。
単なるミスであったとしても、このようなことのないように注意すべきです。
また、赤字対策(つまり、銀行対策)として意図的にしているなら、あまり意味のないことだと言っておきましょう。
たとえば、駐車場(構築物)を取り壊して、そこに建物を建てたようなケースです。
駐車場を取り壊すと“除却損”が出ます。
この除却損で赤字になるのが嫌で、帳簿上残してしまうのです(ちなみに取り壊しに掛かった費用は建てた建物に含めたりします)。
銀行は、決算書をそのまま利用する(一次評価という)わけではなく、補正(三次評価という)して融資の可否の判断をします。
この補正の段階で上の例で出したような会計処理は修正されます。
参考記事 ➡ 信用格付けで銀行に好かれる方法!!
また、除却損はお金の出て行かない損失なので、キャッシュ・フローを改善します。
ですから、除却損を計上しないのは、資金繰りの点から良くないことなのです。
ケース2:実物があるのに帳簿にない?
いわゆる「有姿除却」です。
有姿除却は、多額の取り壊し費用がかかる場合に、現状のまま帳簿上で除却処理を行います。
帳簿上ゼロであるにもかかわらず、実物がある有姿除却は完全におかしいというわけではありません。
また、取り壊し費用が工面できない場合に有姿除却をすることは一定のメリットがあります。
取り壊し費用というお金が出ていかないし、除却損の計上でさらにキャッシュ・フローを改善するからです。
しかし、税務上では、有姿除却はの要件(法人税基本通達)は厳格ではあるので、慎重に対処する必要があります。
法基通7-7-2 次に掲げるような固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができるものとする。(昭55年直法2-8「二十五」により追加)
(1) その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
(2) 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
有姿除却資産がある場合、顧問税理士に要件を充たしているかどうか確認すると安心です。
ケース3:減価償却費を計上しない?
これは規則的にすべき減価償却が計上されていないようなケースです。
赤字対策として、減価償却費を計上しないようなケースもたまに見ますが、減価償却費の計上はキャッシュ・フローを改善しますので規則的に計上したほうがいいでしょう。
減価償却費を計上しない(適正額より少なくすることも同じ)で黒字化することは、つけを後に回しているだけです。
つまり、減価償却をしないとしても、処分するときに大きな除却損が計上されることになります。
小手先の操作で黒字化しても銀行にはばれますので、抜本的な販売力の強化に力をそそぎましょう。
無形固定資産は“モノ”がないけど、有形固定資産と同じです!
営業権、特許権、商標権、電話加入権、ソフトウェアなどが無形固定資産です。
中小企業の場合は電話加入権とソフトウェアぐらいしかないでしょう。
なお、ソフトウェアは減価償却しますが、電話加入権はしません。
ソフトウェアについて細かいことを言えば、「自社利用のソフトウェア」と「市場販売を目的としたソフトウェア」が無形固定資産に計上される場合があります。
中小企業の場合は、会計ソフトなどの自社で利用するための「自社利用ソフトウェア」が多いでしょう。
この場合、10万円以上のソフトウェアは無形固定資産に計上されます(10万円未満は費用処理)。
無形固定資産も目の付け所は固定資産と同じで「帳簿が価値を反映しているか」です。
無形固定資産の場合は物理的な実物がないため固定資産より厄介ですが、考え方は同じです。
なお、「“モノ”があるのに帳簿にない」の有姿除却はソフトウェアにも認められています。
法基通7-7-2の2 ソフトウエアにつき物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、次に掲げるように当該ソフトウエアを今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、当該ソフトウエアの帳簿価額(処分見込価額がある場合には、これを控除した残額)を当該事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(平12年課法2-19「九」により追加)
(1) 自社利用のソフトウエアについて、そのソフトウエアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウエアを利用することになり、従来のソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合
(2) 複写して販売するための原本となるソフトウエアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合
しかし、無形固定資産の場合、有形固定資産と違い、目で見て物理的に使用できない状態であると確認するのが難しいので、「エビデンス」をしっかり準備することが必要です。
投資その他の資産とは!?
株式などの投資有価証券、長期貸付金、保険積立金などが投資その他の資産を構成する勘定科目です。
ここでの目の付け所は、やはり「帳簿が価値を反映しているか」です。
上場有価証券は、一応価値(売却すればお金になる)はあります。
ただし、時価評価をしていない有価証券の場合は、帳簿上の価格が正しいとは言えません。
あなたが買った当時の価格より、大幅に価値が下落している可能性があるからです。
投資その他の資産の中ではは、長期貸付金や長期未収入金は注意を要します。
事実上、お金が回収できないケースでも、当初の貸付価格が帳簿価格になっている場合もあるからです。
また、回収不能になった営業債権(たとえば、不渡の手形)の貸倒損を出したくないために、長期未収入金に振り替えているような場合もあるかもしれません。
投資その他の資産は、相手の信用力に左右されるような危険な落とし穴がたくさんあります。
ですから「査定」をしっかりやらないと経営分析比率での判断を誤ることになります。
繰延資産は無視してもいいでしょう。
繰延資産については、中小企業の場合は金額的にわずかであることと、そもそそも「資産価値」がないことから、無視していいでしょう。
まとめ
勘定科目ベースで見ていくと、私たちの決算書は修正すべき項目が意外と多くあることに気付きます。
もし、これらが修正されずに財務分析の比率を用いているなら、あなたの判断は誤っている可能性があります。
狂ったナビでは目的地に到達することはできませんので注意しましょう。
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