赤字なんてどうってことないと、あなたは思っていないでしょうか?
赤字は債務超過への入り口であり、慢性化すると本当に怖い債務超過へ転落します。
会社経営者なら債務超過はよくないと聞いたことがあるかもしれませんが、この記事ではその理由を明らかにします。
また、債務超過になった時の解消法を4つお伝えするとともに、そもそも債務超過にならない本質的な方法をお伝えします。
債務超過にすでになってしまった方、あるいはそうなる前にその兆候を発見し上手く対処したいと考えている方はご参考ください。
1.赤字は債務超過への入り口!
1.1 赤字への無頓着~本当に大したことないのか?
赤字会社はどれくらいの割合なのかについては、国税庁の調査がよく引用されます。
その調査によると、欠損法人の割合はおおよそ64%です。
しかし、欠損法人は必ずしも会計上の赤字会社ではありません。
国税庁の言う欠損法人とは、税務上の利益(所得)がゼロの法人だからです。
つまり、会計上は黒字でも、繰越欠損金の利用などにより申告所得がゼロになるのであれば、それは欠損法人ということになります。
これとは別に、会計ベース(経常利益)での赤字企業割合についての統計資料が中小企業庁から出ています(国税庁は大企業も含みますがこちらは中小企業のみ)。
この調査では、40%弱の中小企業が赤字のようです。
少なくとも中小企業の4割もが赤字企業であるのは、経営者が赤字に対して無頓着になっているからでしょう。
加えて、赤字会社は法人税が安くなるため、節税のため赤字をコントロールしているという感覚もどこかあるのかもしれません。
1.2 赤字は本当にコントロール可能か?
節税のために赤字にしているという社長はおそらくコントロールしていると言うでしょう。
つまり、今回の赤字は将来への投資としての費用が多くなったからであり、その気になればいつでも黒字に転換できると・・・。
しかし、毎期そんなに都合よく赤字になるような投資案件が出てくるものでしょうか?
仮にそういった投資案件があったとしても、その投資は会社の収益獲得に貢献しているのでしょうか?
また、いつでも黒字にできるというのは本当でしょうか?
節税をあまりに重視しすぎると(節税のみが目的化すると)、継続的に経営し、やがて幸せな引退をするということができなくなる可能性があります(幸せに引退するためにはこの記事をお読みください)。
なぜなら、赤字により債務超過という大きな落とし穴に落ちることがあるからです。
1.3 債務超過の企業は多い!?
確かに債務超過であっても、法的に倒産したわけではないので、経営を続けることはできます。
そして、実際に債務超過の状態で経営を続けている中小企業は案外多いのです。
中小企業庁では債務超過である企業のデータを公表しています(中小企業白書 第1-2-43図)。
従業員数による企業規模別のデータですが示すと、次のとおりです。
従業員数 1~ 5名 33.6%
従業員数 6~ 20名 22.5%
従業員数 21~ 50名 11.6%
従業員数 51~100名 7.3%
従業員数 101~300名 4.5%
従業員数 300~ 名 1.3%
従業員数が少ないほど、債務超過である企業の割合が増えていますが、これは小規模企業ほど自己資本が少ないからです(自己資本が少ないと自己資本比率が小さくなります。自己資本比率についてはコチラをご覧ください)。
つまり、小規模企業はちょっとした業績の悪化で債務超過になる可能性が高いのです。
1.4 赤字から債務超過へ転落する道筋
黒字は基本的に貸借対照表の資産が増えていきますが、赤字だと資産が減少していきます(なお、貸借対照表の見方はコチラの記事をご覧ください)。
極端ですが、これは借りたお金100万円で商品100万円を仕入れて、それを90万円で売ったような場合を考えると分かりやすいでしょう。
この場合、借入などで集めてきたお金100万円(当初はそれに見合う現金という“資産”が100万円あった)が最終的に90万円の現金に減少してしまいます。
そして、貸借対照表上では90万円の現金と100万円の借入金を、文字通りバランスさせるために、“純資産”にマイナスの利益(つまり損失)が計上されます。
つまり、赤字の状態になると、今まで累積してきた利益がどんどん失われていき、最後は累積利益ゼロになります。
さらに赤字が続くと、累積してきた利益額を食いつぶすだけでなく、資本金まで食いつぶしていきます。
これを資本の欠損といいます(厳密には「資産-負債<資本金+法定準備金」)。
そして、最終的に純資産のすべてを食いつぶし、負債が資産より大きくなります。
このような「資産<負債」の状態を「債務超過」といいます。
会計に詳しくない人でも債務超過は異常な状態であると感じるはずです。
債務超過は「資産<負債(負債のほうが大きい)」の状態ですから、今ある資産で負債のすべてを支払うことができないということを意味しているからです。
つまり、債務超過の状態で倒産したら借金だけが残ることになります。
2.債務超過は最悪の状態なのか?
2.1 債務超過は事実上の倒産?!
債務超過状態でも経営を続けている会社が存在しているので、深刻に考えない人もいます。
しかし、債務超過は実質的には倒産と言えますので、シビアに受け止めたほうがいいでしょう。
たとえば、手形の不渡りを2回出せば銀行取引停止処分を受けることはご存知かと思います。
株式会社では銀行取引停止処分を受けると、法的な倒産手続き(破産手続きなど)の開始原因になるため「事実上の倒産」と言われます。
そして、「債務超過」も銀行取引停止処分と同じように、法的な倒産手続きの開始原因になっています。
銀行取引停止処分の場合、即資金繰りがひっ迫し、経営が立ち行かなくなることが多いですから、法的な倒産手続きの申し立てを普通はします(法的な倒産手続きをする)。
一方、債務超過の場合、銀行取引自体はできるので、なんとか資金が回っている限りは法的な倒産手続きには進みません。
これが債務超過の会社が“倒産”しないで経営を続けている理由です。
しかし、会社にキャッシュを生み出す強い力がないと、今まで必死にためた現金や預金を使ったり、保有している有価証券を現金化するなどで資金繰りのひっ迫に対処していくことになります。
そんなことは長くは続かないので、債務超過は真綿で首を締めるように資金繰りをじわじわと悪化させていきます。
こうなると、あなたがお金持ちでじゃぶじゃぶと会社へ資金を投入できない限り、破たんするのは時間の問題です。
実際、東京商工リサーチの調査によると、倒産企業の49.8%が赤字であり、その61.4%が債務超過であるとのことです(2016年「倒産企業の財務データ分析」)。
データから赤字は債務超過のみならず、「倒産」の入り口であることが分かります。
2.2 債務超過のデメリット
債務超過のデメリットとして、一般的に次のようなことが言われます。
- 銀行からの新規借入は非常に困難になる。
- 現在の借入金について、銀行から金利の引き上げや早期回収を要求される場合がある。
- 取引先(仕入先、販売先)からの信用を失う。
上の1、2は、債務超過になった場合の銀行との関係です。
債務超過はキャッシュを生み出す力が弱っているということですから、銀行から見れば貸したお金を回収できない可能性があります。
だから、貸し倒れの危険がある相手先に貸付を行うはずがないのです。
銀行から資金調達できなければ、会社がキャッシュを生み出すための経営改善策はできなくなるでしょう(あなたに多くのお金があれば別ですが)。
また、銀行は今貸しているお金もなるべく早く回収しようとするかもしれません。
つまり、貸しはがしや金利を引き上げられことにより、資金繰りの悪化に拍車がかかるといことです。
そして、さらに資金繰りが苦しくなると、仕入れ先への支払いが滞り、販売先の代金の回収を早めるよう依頼するでしょう。
こうなると、取引先の信用はガタ落ちです。
取引関係を継続していくことが困難になり、さらにキャッシュを生み出す力が落ちていきます。
このように債務超過の本質的なデメリットは、会社の「キャッシュを生み出す力」がどんどん削がれていくことにあります。
もちろん、銀行から借入金がなければこのようなことで悩む必要はないかもしれません。
しかし、残念なことに中小企業は金融機関からの借入依存度が高いのです(中小企業白書 第1-2-42図)。
つまり、債務超過により望ましくない結果を招くことになる中小企業は多いということです。
2.3 債務超過の本当の恐怖とは!?
債務超過が事実上の倒産であるなら、その最終結果は「法的な倒産」と同じように苦しいものとなるはずです。
仮に、なんとか法的な倒産を免れても債務超過の状態にある「会社をたたむ」時に、倒産と同じような苦労をすることになります。
仮に、あなたは自分の会社を「廃業」という形で終わらせるとしましょう。
廃業するには、会社の資産、負債を清算しなければなりません。
債務超過の会社ですから、負債が多い状態です。
しかし、負債のすべての支払いが終わらなければ廃業できません。
多くの中小企業経営者は銀行からの借入金に個人保証を付けているはずですから、家を売ってでも借金を払い終えなければならないということです(あなたが残りの借金を銀行に払えるだけの現金を持ち合わせていない限りは・・・)。
また、借入は社長からだけという場合でも、負債は額面どおり払わなければならないのに対して、資産はその時の価値で評価されるものが多いので、あなたが会社に貸し付けた借入金はおそらく回収できないでしょう。
会社をたたんだ後のあなたの人生はどうなるのでしょうか?
少額の年金だけが頼りの生活は心細いでしょう。
孫におもちゃの一つを買ってやれないばかりか、生活するために子供の世話になるかもしれません。
あなたにとって喜ばしい未来ではないはずです。
3.債務超過にならないためのシンプルな方法
3.1 債務超過からの脱出方法4選
一般的には債務超過からの脱出法として、次の4つの方法があります。
- 出資して債務超過を解消する。
- DESという手法で社長借入金を資本に振り替える(DESはコチラの記事をご覧ください)。
- 不要資産を売却して金融機関からの借入金を返済する。
- キャッシュフローが増加するように販売力を強化する。
1.について
あなたがお金持ちなら、会社に出資し、そのお金で銀行からの借入金を返済すれば、債務超過を解消できるかもしれません。
しかし、債務超過の会社の社長は個人資産が乏しい人も多いので、現実的にこの方法を取れる人は限られるでしょう。
2.について
DESは社長借入金が債務超過を解消するほど多額にあれば、有効です。
しかし、この方法は帳簿上、借入金から資本金に振り替えただけで会社にキャッシュが増えるわけではありません。
また、DESで一時的に債務超過状態を解消したからといって、二度と債務超過に陥らないような稼ぐ力が獲得できたとも言えません。
つまり、この手法は赤字体質から脱却を考えないと、再び債務超過になる可能性が高く、一時しのぎの延命策になってしまうということです。
3.について
不要資産を売却して、その代金を借入金の返済に充てるのは、財務体質改善の王道的な方法です。
もし、会社に遊休の土地などがあるなら、売却して金融機関からの借入金の返済に充てることを考えてほうがいいでしょう。
4.について
販売力の強化は本質的な方法です。
即効性のある方法ではありませんが、その効果は手堅く長く続きます。
ですから、もしビジネスを続けるのなら、出資、DES、不要資産の売却などの即効性のある方法と組み合わせて必ず考えなければなりません。
3.2 結局、債務超過にならないことが一番の対策です!!
債務超過のような切羽詰まった状態のなかでビジネスを再生させるのは、あなたが思う以上に大変なことです。
債務超過は事実上の倒産と言われるくらいですから、想像に難くないでしょう。
ですから、ビジネスをこの先も継続していき、幸福な社長人生を全うしたいなら、そもそも「債務超過にならない」ことこそが究極の債務超過解消法です。
同じ倒産原因でも銀行取引停止処分とは違い、債務超過は即資金繰りのひっ迫という強い痛みを当初は伴いません。
痛みをそれほど感じずに、じわじわと会社の財務体質を蝕んでいきます。
しかしながら、多くの社長は赤字になっても、強烈な痛みを感じるまで見て見ぬふりを決め込みます。
思えば、具体的に赤字にならなくても、会社の不調を知らせるシグナルは多く発せられていたはずです。
たとえば、
・古くからの販売先との取引の減少
・冷たくなったように感じる銀行の態度
・資金繰りに悩む回数が増えた
・従業員がよく辞めるようになった
など、これまでいろいろあったかもしれません。
もちろん、これらすべてが債務超過の直接的な原因になったわけではないでしょう。
しかし、決算書上に現れない経営上の違和感に対する感受性を高めることが、債務超過のような望ましくない状態を避けるのに役立つのです。
債務超過のような状態になってしまうと、再生のための有効な打ち手は限られ、難しくなりますので早い段階でシグナルを捉えて手を打つべきです。
だから、何かおかしいと感じたら、迷わず銀行や顧問税理士さんに相談しましょう。
きっと、あなたの経営に対する鋭い嗅覚を称賛してくれるはずです。
そうすることではるかに素早く、そして簡単に、ビジネスを安定した軌道に戻すことができます。
4.まとめ
赤字を軽視してはいけません。
たとえその赤字をコントロールできていると思っていても・・・。
中小企業の場合、純資産(自己資本)が少ないためあっという間に債務超過になります。
債務超過の放置は、あなたのビジネス人生を不幸せなものにするかもしれません。
債務超過を解消する方法はありますが、なってから具体的な行動を起こすより、その前兆をとらえて素早く対処する方がずっと簡単です。
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