過剰在庫が経営を圧迫する!?在庫と利益、資金繰りとの関係

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在庫を多く持てば持つほどお客様にご迷惑を掛けないので良いと思っていないでしょうか?

確かに在庫があれば、お客様を待たせることなく迅速に商品を引き渡すことができます。

しかし、一方で在庫の増加は、資金繰りをひっ迫させる可能性があります。

お客様のために良かれと思って保有している在庫があなたの経営を圧迫するかもしれません。

素晴らしい商品を永遠にお客様の所へ届けることができなくなったら本末転倒でしょう。

 

この記事を読むことで在庫について次のことがわかります。

  1. 在庫を保有することのメリットとデメリット
  2. 在庫と利益との関係
  3. 在庫と資金繰りとの関係

在庫と利益、資金の関係を深く理解することで、在庫で経営を危うくすることなく、お客様の満足度を高めていくことができます。

 

1.在庫保有のメリット

棚卸資産を多く持つと、欠品で販売できないということは少なくなります(販売機会を失わない)。

また、お客様が欲しい時に入荷待ちさせることなく、タイムリーに商品を引き渡すことで、あなたの商品を楽しみにしていたお客様の満足度を高めます。

満足したお客様は再び購入してくれる可能性が高いので、売上がさらに拡大するかもしれません。

このようなメリットが在庫保有にはあります。

2.在庫保有のデメリット

在庫を持つことのメリットは抗い難い過剰在庫への欲求を生み出します。

欠品しないという安心感が欲しいため、在庫を必要以上に増やしてしまうのです。

 

たとえば、営業部門は急な注文に対応できるように、安全のため、必要以上の在庫を保有しようとします。

また、同じように安全のため、購買部門でも営業部門の要求数字に上乗せして在庫を保有しようとします。

一つの部門では余裕分として持った少量の在庫でも、全社単位ではかなりの量になります。

しかも、売れ筋商品だけでなく、多くの商品に対して余裕分を持ったらどれだけの在庫増となるのか想像できると思います。

 

一方、過剰在庫は次のようなデメリットがあります

  • 仕入費用が増える
  • 在庫の保管費用が増える
  • 品質の劣化
  • 陳腐化(流行遅れ)
  • 資金繰りの悪化

 

一般に、仕入代金を下げるためには現金で大量仕入れする必要があります(多くの現金を準備する必要がある)。

そうすれば、確かに仕入代金は安くなりますが、一方で、その大量の商品を輸送するための費用は増えます。

結局、トータルで見れば仕入費用は増えることが多いでしょう。

 

また、過剰在庫を持つと倉庫の賃借料や在庫管理のための人件費など保管費用が増加します。

 

これだけにとどまらず、過剰在庫は売れずに滞留することも多いので、劣化や陳腐化が生じれば、場合によっては評価損を計上しなければならなくなります。

 

このように過剰在庫は在庫に係る様々な費用が増大することがデメリットです。

 

なお、一般的に、あなたが営んでいる事業が商業であれば「商品」、工業であれば、「原材料」、「仕掛品(しかかりひん)」、「半製品」、「製品」といった在庫があるはずです。

また、商業と工業に共通する「貯蔵品」という在庫もあります。

これらを会計の言葉で「棚卸資産」と呼び、貸借対照表左側(借方)の資産の部、流動資産に記載します。

建設業の場合は、「原材料」、「未成工事支出金」、「貯蔵品」が一般的な棚卸資産です。

3.在庫と利益の関係

「在庫が増えると利益が増える」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

 

しかし、適正な会計処理をしている限りそのようなことはありません。

商業を例にこのことを説明します(工業の場合はちょっと複雑ですが理屈は同じ)。

 

利益(売上総利益、粗利のこと)は、

 利益=売上-売上原価

で計算します。

 

そして、売上原価は

 売上原価=期首棚卸商品(期首在庫)+当期仕入高-期末棚卸商品(期末在庫)

で計算します。

 

つまり、この式は期首の「売れ残った商品(期首在庫)」に「新たに仕入れた商品」を足し、そこから期末の「売れ残った商品(期末在庫)」を引くことで、「お客様に引き渡した商品(売上原価)を計算しているのです

計算上の「お客様に引き渡した商品(数)」は、実際にお客様に対して「売り上げた商品(数)」と原則的には一致します。

 

期末在庫が増えた場合(つまり、売れ残りが増えた)、②式で売上原価を計算すると、その金額は減少します。

しかし、同時に売上も減少するので、利益は増えることはありません。

これが在庫と利益の基本的な関係です。

 

もちろん、 売上が増えたのでもっと売るために仕入れを増やす、その結果、在庫が増えることはあるかもしれません(この場合在庫が増えて、利益も増加)。

しかし、飛ぶように売れるのであれば、仕入れたそばから在庫がはけていくのが普通ですので、大幅な在庫増はないでしょう。

 

なお、在庫と利益の基本的な関係は損益計算書の営業利益とキュッシュフロー計算書の営業キャッシュフローを見てもわかります。

営業利益が増加しているにもかかわらず、在庫増の影響で営業キャッシュフローがマイナスになっているようなケースは適正でない会計処理がなされている可能性があるということです。

 

適正でない会計処理の場合は在庫と利益の基本的な関係が崩れます。

適正でない会計処理は次のような場合です。

  • 実態のない期末在庫がある(架空在庫の計上)。
  • 不良化した棚卸資産を評価せずに期末在庫に計上している。

 

こういったものがあると、売上原価、つまり、「計算上のお客様に引き渡した商品」は減少します。

一方、実際にお客様に対して売り上げた商品(売上)は減りません。

だから、「売上-(過少計上した)売上原価=利益」は増えることになります。

 

また、不良化した棚卸資産がある場合も考え方は同じです。

たとえば、100円で仕入れた商品がデットストックとなり、定価で売れないような場合は、在庫の帳簿価格を下げる必要があります(仮に、評価額を20円としましょう)。

 

期末在庫の帳簿価格を引き下げない場合、期末の在庫は「100-20=80円」分だけ過大になっています。

そして、売上原価はその分だけ計算上は過少になるため、利益が増加します。

 

在庫管理は人間のやることですから、ミスはあるものです。

しかし、「利益が欲しい」という理由で意図的に“適正でない”会計処理をすることは絶対にしないでください。

架空在庫はどこかで帳尻合わせをしないかぎり、永遠に抜け出すことができません。

なぜなら、翌期には、期首在庫増による計算上の売上原価が増加することに伴い、利益が減少するからです。

そこで、利益を創出するために再び架空在庫の計上に手を染めます。

感覚がマヒしてこのような処理が常態化すると、雪だるま式に架空在庫が増えていき、手の施しようがなくなります。

 

なお、不正な会計処理は結局のところ高くつくことになりますが、それについては「不正会計がビジネスに致命的な影響を与える理由!」をお読みください。

4.在庫と資金の関係

在庫を増やすと、欠品などによる売上機会を失うことは少なくなります(在庫保有のメリット)。

 

しかし、資金繰りとの関係で見ると、在庫の増加はキャッシュフローを減少させるという資金面でのリスクを伴います(在庫保有のデメリット)。

 

在庫はお客様に売ることで「現金」に転化するので、在庫として持っているだけでは資金は増えないからです。

 

しかも、管理がいい加減であると、物によってはどんどん劣化・陳腐化します。

こうなると、当初予定していた価格では売れませんので、売却した時に入ってくるお金はますます少なくなっていきます。

 

また、在庫が不良資産にならないようにするためには、それなりの倉庫や管理する人が必要なのでお金が掛かります。

 

つまり、現金は持っているだけでお金を生み出し(預金として預ければ利息を生む)ますが、在庫は持っているだけで余計にお金が必要になるということです。

 

資金管理の厳しいトヨタがジャスト・イン・タイムにより、在庫を極力保有しないようにしているのは在庫保有のリスクをしっかり認識しているからです。

まとめ

欠品リスクを恐れるあまり、在庫を多く持つ誘惑にかられる経営者も多いでしょう。

 

一方で在庫の増加は資金繰りを確実に悪化させます。

 

会社は赤字になるだけではなかなか潰れませんが、資金不足になると簡単に倒産します。

 

ですから、中小企業経営者は在庫のメリット面より、むしろデメリットの方に注意すべきでしょう。

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コメント

  1. masamasa より:

    お世話になります。
    大変わかりやすい解説をどうもありがとうございます。1つ質問ですが、
    製造業の全部原価計算では、製造固定費が在庫に含まれ、固定費は売上に比例しません。翌期首に繰り越され、翌期の利益圧迫要因になるという理解であってますでしょうか?

    1. 武藤 より:

      masamasa様
      「あきんどう」を運営しております公認会計士・税理士の武藤と申します。
      コメントありがとうございます。

      ご質問の件ですが、当期の在庫に製造固定費が計上されるため、翌期の利益の圧迫要因になるという理解でよろしいかと思います。

      ただし、当期から見れば、在庫の中の製造固定費は翌期に繰り越されてしまうため、当期の利益増加要因でもあります。

      従いまして、翌期の実際の利益は、期首に繰り延べられた製造固定費と翌期末在庫に計上される製造固定費の額の大きさで変動することになります。

      このように全部原価計算では、在庫の中の固定費が利益に影響を与えたり(同じ売上で利益が違う)します。
      また、製造量により製品1個当たりの原価が変わってしまうといいう弊害もあります。

      このような固定費の弊害を排除する考え方として「直接原価計算」という管理会計の原価計算手法があります。

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