あなたは、どの程度の借入金が会社にとって無理のない水準なのか分かっているでしょうか?
銀行からお金を借りることは、経営者なら誰しも不安に思うものです。
中小企業は少しでも業績が悪化すると、借入金や利息の支払いに苦労することもあるからです。
そうならないために、「有利子負債比率」という簡単な財務指標で、借入金の適正水準をチェックする必要があります。
有利子負債比率は、銀行が貸付先の借入金が返済不能になっていないかを見るための重要な指標です。
この記事を読むことで有利子負債比率について次のことがわかります。
- 計算方法
- 本質的な意味
- 目安
- 改善法
有利子負債比率を熟知することで、自社の借入金の水準が無理のない範囲なのかが分かります。
もちろん、これから新規に借入をしようと考えている経営者にとっても、財務を悪化させない借入をするための役立つ指標となります。
あなたは有利子負債比率を熟知することで、借入金の増大を防ぎ、返済不能という悪夢を避けることができるはずです。
そして、あなたは銀行や税理士から財務に強い社長と一目置かれることになるでしょう。
1.有利子負債比率とは?
1-1 そもそも有利子負債とは何か?
有利子負債とは、利息を付けて返済しなければならない債務のことです。
銀行などの金融機関からの借入金は有利子負債です。
また、ほとんどの中小企業にはないと思いますが、私募債などの社債も有利子負債です。
つまり、有利子負債は、「(金融機関からの)借入金」と「社債」の合計額ということになります。
1-2 有利子負債比率の計算方法
有利子負債比率は次の計算式で求めます。
基本的には、貸借対照表から数字を拾ってくれば、簡単に計算できます。
ただし、注意点があります。
分子の有利子負債は、「金融機関からの」借入金ですので、「社長(役員)からの」借入金は除いて算定してください。
多額の社長借入金を含めたまま有利子負債比率を算定すると、数値が跳ね上がってしまいます。
貸借対照表だけでなく、勘定内訳書も確認して正しく計算しましょう。
1-3 有利子負債比率の意味とは?
有利子負債比率は、返済しなくてもいい自己資本と返済の必要のある他人資本のバランスを見る指標です。
有利子負債比率が100%未満なら、有利子負債より自己資本が多いということであり、財務的に安全な状態を意味します。
なぜなら、借入金などの有利子負債が多いほど、それだけ返済不能に陥る可能性が高くなるからです(自己資本は返済しなくていいので返済不能にはならない)。
また、借入金が多いほど(自己資本が少ないほど)、好況時には自己資本利益率という収益性の指標は良くなるというメリットもあります。
しかし反対に、不況時には自己資本利益率は大きく悪化します(自己資本利益率についてはこちらの記事で詳しく解説しています)。
つまり、借入金などの有利子負債が多いほど好不況での自己資本利益率のブレが大きくなり、経営が不安定になるというデメリットがあります。
財務に詳しくないと、返済不能リスクのみを考えて、無借金経営が良いと判断してしまいがちです。
しかし、倒産しないといった安全性や好不況の利益にブレがないといった安定性の面から無借金経営にメリットがあっても、好況時に大きく儲けることができないというデメリットがあるのです。
さらに言えば、無借金経営は管理が難しく、管理コストが上昇します(無借金経営についてはこちらの記事で詳しく解説しています)。
だから、借入金が少なすぎる(自己資本が多い)とか、多すぎる(自己資本少ない)とかいった極端な偏りは避けたほうが良いでしょう。
1-4 有利子負債比率の目安は?
となると、自己資本と有利子負債の適度なバランスはどこなのでしょうか?
有利子負債比率は100%以下なら安全と言われます。
なぜなら、有利子負債の全額を自己資本で賄うことができるからです(資本に見合ったキャッシュは現実にはないので、実際には賄えませんが・・・)
なお、東京商工リサーチによる「2018年倒産企業の財務データ分析調査」によると、「生存企業」の有利子負債比率はおおよそ75%です(注:当該調査により執筆者算定。なお、東京商工リサーチのデータはコチラをご覧ください)。
ですから、銀行が思わず貸したくなるような財務的に安定した会社にしたいなら、まずは有利子負債比率は75%の水準を目指すと良いでしょう。
2.有利子負債比率の改善法!?
2-1 有利子負債比率をよくするための2つの方法
もう一度、計算式を見てみましょう。
ご覧のように、有利子負債比率を引き下げるためには、「自己資本を増やす」か「借入金などの有利負債を減らす」かの2だけです(あるいはその両方を行う)。
2-2 自己資本を増やす?
繰り返しになりますが、自己資本を増やすための方策は、「出資する」か「内部留保(これまで会社が稼いだ利益の累積額)を増やす」かです。
しかしながら、今すぐ「出資する」できるくらいなら、あなたはとっくにしていたことでしょう。
また、「内部留保」を厚くするのは、すぐできるものではありません。
ですから「自己資本を増やす」ことは、現実的には難しいということになります。
2-3 有利子負債を減らせばいいのでは?
もちろん、それで良いのですが、借入をしようと考えている人が借入金を減らすというのは変な話に感じる人もいるでしょう。
借入をしようとする人(つまり、お金がない人)は、そもそも返済のためのお金を用意できないから、変な話に聞こえるのです。
逆を言えば、返済原資を調達できれば、別におかしな話ではないということになります。
たとえば、受取手形がある場合、これを割引して得た資金を短期借入金の返済に回すということができます。
また、無駄な資産(株式などの投資有価証券)を売却した資金で、短期借入金を返済するという方法もあります。
この場合、売却した資産に損が出た場合、分母の自己資本(内部留保の部分)が減ります。
しかし一方で、分子の借入金は減少するため、有利子負債比率を改善します。
つまり、有利子負債比率が改善するなら、この手法は有効ということです。
なお、売却損が出た場合は税金が削減できるため、キャッシュ・アウトが減り、資金繰りも改善します。
2-4 DESという方法がある・・・しかし、・・・
あなたも聞いたことがあるかもしれませんが、「デット・エクイティ・スワップ(DES)」という手法があります。
多額の借入金などがある会社が、その債務を資本に交換する手法です。
社長借入金など多額にある会社がDESを行うと、有利子負債比率の分母である自己資本が増加するため(分子は“金融機関からの”借入金のため変化しない)、有利子負債比率は改善します。
しかし、そもそもDESは債務超過の状態にあるような会社の事業再生のための手法であり、そのような状態にないような会社が財務比率の改善のためだけに安易に使うべきスキームではないと考えます。
また、DESを使うことにより、確かに貸借対照表の見栄えは良くなりますが、あなたが借入金を絶対に返済して欲しいと思わない限り、社長借入金だろうが、資本金だろうが貸し手側の銀行から見れば、実質的には変わりません。
であるならば、あなたに返してもらうつもりがないなら(または実質的に返せないなら)、社長借入金を自己資本に加えた比率で判断してもらえるように銀行に頼んだ方が手っ取り早いわけです。
なお、決算書の見栄えにこだわる人や事業再生のためDESが必要だと考える人は、税務上の判断等難しい取り扱いもあるため、顧問税理士とよく相談してください。
DESについてはコチラの記事で解説していますので参照してください。
また、有利子負債比率と関連性のある自己資本比率についての記事も併せて理解すると財務力を高めるのに役立ちます。
3.まとめ
借入金などの有利子負債を極端に嫌う経営者もいるでしょう。
しかし、適度な借入金は財務の安定性を極端に崩すことなく、収益性を高めてくれます。
借入金を極度に恐れるのは適正な水準を知らないからです。
この適正な有利子負債の水準を知ることができるのが、有利子負債比率という財務指標です。
借入金の適正な水準から外れている場合は、改善するといいでしょう。
これらの比率を改善するために短期的な方策はありますが、なにより利益を積み上げていくことが根本的な解決策となります(その他の財務比率も改善する)。
関連記事:銀行が融資したくなる財務の強い会社にするためには、有利子負債比率を含めて7つの財務指標を改善するといいでしょう。
有利子負債比率以外のその他の指標については、以下の記事をご覧ください。
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